2012/11/12

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歌手インタビュー[ソフィア国立歌劇場]

≪ウラディーミル・サムソノフ(ジャンニ・スキッキ)≫
 登場のシーンから、素晴らしいカリスマ・オーラで観衆を惹きつけ、グイグイ物語を引っ張っていく「ジャンニ・スキッキ」のタイトルロール、ウラディーミル・サムソノフ。モルドバ共和国生まれのバリトンで、マリインスキー劇場の専属歌手だが、このオペラで初めてソフィア国立歌劇場に招かれたという。プッチーニの壮麗なオーケストレーションと相性のいい説得力のある低音で、歌声にも立ち姿にも「これぞ主役!」という華がある。声色を使い分けるユーモラスな演技も最高。鷹のような鋭い眼の持ち主だが、楽屋で私服の靴を褒めると「持って行っていいよ!」と冗談を言うほど、楽しい人だった。

ウラディーミル・サムソノフ

――ジャンニ・スキッキ役は何年くらい演じているのですか?
「9年ぐらいになるかな。マリインスキー劇場だけでも二つの演出で歌っているよ。コミカルな役は結構多いんだ。モーツァルトの「フィガロの結婚」やロッシーニの「セヴィリアの理髪師」に「シンデレレラ」、ショスタコーヴィチの「鼻」も得意なオペラです。「ジャンニ~」は歌うだけでなく、お芝居が大事。演じていてとても魅力のあるオペラだし、舞台全体が「生きている!」と実感することが多いんだ。ユーモアのある役は、自分の芸の幅も広がるしね」

――ソフィア国立歌劇場とはどのようなきっかけで共演することになったのですか?
「一年前に、オランダのマネージャーを通して「ソフィアでジャンニ・スキッキに適役の歌手を探している」というオファーが届いたんだ。ちょっと急な話ではあったんだけど、僕も興味があったから引き受けたんだよ」

――「ホーム」であるマリインスキーと比べて、ソフィアはどんな特徴がありますか?
「マリインスキーは世界でもトップレベルの歌劇場で、そこで専属歌手として歌っていることには自負もあるし、色々なところに招かれるたびに、上演のレベルを比較することもあるよ。ソフィアの「ジャンニ…」は、高いレベルの芸術性があって、演出も素晴らしい。その意味ではマリインスキーに勝るとも劣らないと思う。共演の歌手たちもとても素晴らしいしね」

――なるほど。ところでサムソノフさんは、素晴らしい低音をお持ちですが、声域としてはバス=バリトンになるのでしょうか?
「リリック・バリトンだよ。ロシアの歌手は総じて声域が広いから、ロシアではリリック・バリトンでも、ヨーロッパではバスと呼ばれることがあるんだ。ブリュッセル・オペラでは「炎の天使」(プロコフィエフ)の審問官の役で呼ばれたんだけど、これはバスのパートなんだよね。大野和士さんの指揮でね」

――本当に声域が広いんですね!ジャンニ役では、登場の瞬間から舞台全体を支配するような強烈なカリスマ・オーラに驚きました。
「ジャンニ役でなくても、舞台の上で何がしかの役を演じようと思うのなら、カリスマ性は必要だよ。女性歌手には優しさや魅力が求められ、男性歌手には強さやカリスマ性が求められる。それを持っていないと舞台で生きていくのは難しいと思うね」

――ゲネプロでも気迫がすごかったです。本番のジャンニにも期待していますね。
「アリガトウ!(日本語で)」

≪コスタディン・アンドレーエフ(トゥリッドゥ)≫
マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」はオペラ歌手にとって多くを求められる演目。特にドラマティックな歌唱でヒロインを追い詰め、最後は不倫相手の夫に刺されてしまうトゥリッドゥは、ヴェリズモ・オペラの中でも最も過酷なレパートリーのひとつだ。
この難しい役を、舞台となったシチリアの太陽のような明るい響きで歌いきるのが、テノールのコスタディン・アンドレーフ。よこすか芸術劇場のゲネプロを終えたばかりの彼に話を聞いた。

コスタディン・アンドレーエフ

――トゥリッドゥ役は歌手にとって喉に大きな負担がかかるドラマティックな役ですが、どのように調整しているのですか?
「喉への負担ということはそれほど大きく考えてはいないよ。何より演劇的に素晴らしい役だから、どちらかというと芝居のほうが大変かも知れないね。トゥリッドゥ役は、テノールの役どころとしてはそれほど重要ではないという人もいるけれど、感情の起伏もあるし、葛藤もあるし、難しい役だと思う」

――トゥリッドゥは最後、サントゥッツァのことを案じて決闘に向かうけれど、途中ではさんざんな仕打ちをしますよね。彼は彼女に対して愛情はあったのでしょうか?
「愛情はあったんだ。ローラのことも愛していたけれど、サントゥッツァのことも愛していなかったわけじゃない。元々ローラを愛していて、ローラが別の男と結婚してしまったことでトゥリッドゥの運命は狂ってしまった。ローラへの愛は強く、その愛が復活したことで、彼はすべてを後悔しはじめる。トゥリッドゥそのものは、残念ながらそんなにいい人ではないよ(笑)。子供っぽいところがあるし。でも、このオペラではサントゥツツァのほうが「いい役」だから、彼女を引き立てるためにも、トゥリッドゥはそんなにいい人物ではいられないんだ」

――オペラの最後ではいい人に見えますね。
「ローラの夫アルフィオと決闘することになって、彼は初めて自分のやってきたことを自覚し、人生を後悔する。あのシーンは、自ら死に向かっていくようなふしもあるね。闘う前から、もう自分が死ぬのを分かっていたのかも知れない。そうして最後の最後になって、トゥリッドゥは人間らしさを取り戻すんだ」

――では、このオペラでのトゥリッドゥの聴かせどころを教えてください。
「前奏曲のあとの有名な「野ばらのように色白なローラよ…」と、最後の「母さん、この酒は強いね…」かな。たくさんあるサントゥッツァとの二重唱も聴かせどころだね」

取材:小田島 久恵(音楽ライター)


ソフィア国立歌劇場

 《マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ
       プッチーニ:ジャンニ・スキッキ》
 □11月15日(木) 18:30 東京文化会館

 《プッチーニ:トスカ》
 □11月17日(土) 14:00 東京文化会館
 □11月18日(日) 14:00 東京文化会館

公演の詳細はこちらから

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