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牛田智大 インタビュー「現在14歳、音楽的にも身体的にも急成長中」

 2012年、12歳でのデビュー以来注目を集め、既に数々のステージ経験を持つ牛田智大さんだが、意外にも海外オーケストラとの共演は今回が初めてだという。現在14歳、音楽的にも身体的にも急成長中の牛田さんに、公演に寄せての意気込みや近況についてお話を伺った。ピアニストならだれもが憧れる“あの作品”の和音がつかめるようになったときのエピソードも登場!



─6月に名門ウィーン・カンマー・オーケストラとの共演が控えています。ヨーロッパのオーケストラとの初共演はどのようなものになりそうでしょうか?
ウィーンにはこれまでに1度だけ行ったことがあります。すばらしい街並みから、文化や歴史を感じました。そういった空気をオーケストラの方々からも感じられるのではないかと楽しみにしています。オーケストラの演奏の臨場感を間近で味わいながら、ひとつの空間、楽しい時間を作ることができたらと思っています。


─シュテファン・ヴラダー氏は、ご自身も子どものころからピアニストとして活躍し、現在は指揮者として活躍されている方です。共演するにあたって楽しみにしていることはありますか?
文化の違いから、きっと音楽に対する見方も、日本の指揮者の方とは別なものをお持ちなのだろうと思います。また違ったアプローチを見せていただくことで、いろいろ学び、またそれを自分の演奏にも反映させたいです。ピアニストの“先輩”としての視点からもアドバイスをいただけたらと思います。


─今回はショパンのピアノ協奏曲を共演されます。ショパンの作品の魅力はどのようなところに感じますか?
 ショパンは、想いをあまり表に出さずに自分の中で葛藤を続け、解決に向かおうとする人だと感じます。大衆に訴えかけるということをしないため、そうした感情を音楽で表現するのは簡単ではありません。ですが、そうしたニュアンスが充分に伝わる演奏ができたらと思っています。


─そんなショパンの作品には、共感するようなところもあるのでしょうか?
 ショパンの作品には、最後のコーダの部分がとても明るいものが多いですよね。一生懸命、真剣に悩んで、だけど最後のところで急に明るく解決に向かいます。それがどこか、あきらめのようにも感じられるのです。とてもおもしろいなと思いますね。そうやって最後明るい考えに向かって行くようなところには、僕自身も少し似たところがあるかもしれません。


─今回演奏するピアノ協奏曲第2番の聴きどころは、どのようなところにあると感じますか?
 やはり3楽章の最後、明るくなってゆく部分ですね。ショパンの2曲のピアノ協奏曲はどちらも19~20歳の若いころの作品で、実際先に作曲されているのは第2番のほうです。第1番の協奏曲はショパンがもうすぐポーランドから離れることになるという時期に作曲されたもので、あきらめや絶望が強く、むしろ、より明るく終わるように感じます。
一方、今回演奏する第2番のほうは、ショパンが当時恋をしていたコンスタンツィアとの関係にも可能性があって、まだ、希望と不安が交互に出てくるような音楽だと感じます。そんな感覚を聴き取っていただける演奏がしたいと思います。
 この作品は、音色など気を配るべきところがたくさんあり、それを上手に表現できないと“普通の曲”になってしまいます。作品がすばらしい音楽に聴こえるようないろいろな工夫を感じていただけたら嬉しいです。

─現在はモスクワ音楽院のジュニア・カレッジに所属して、モスクワ音楽院の先生方のレッスンを定期的に受けていらっしゃるそうですが、ロシアの先生方から教わる中で驚いたことなどはありますか?
 モスクワ音楽院の先生には、メロディを際立たせて、それを歌にすることを大事にされる方が多いと思います。そこで一番違いを感じるのは、ペダルの使い方です。日本で勉強してきた中では、ペダルで音を操るという感覚がありましたが、ロシアの先生方に習うようになって、響きを操るという感覚を持つようになりました。ペダルの響きの中で音楽を作り、メロディを浮き出させるところが、とてもおもしろいと感じます。多少音が濁ると思うくらいペダルを踏むのですが、練習室ではそう感じても、ホールで弾いてみたら2ページ分くらいペダルを踏んでいても全然濁って聴こえなかったりします。



─モスクワ音楽院の先生方から学ぶようになって、驚いたことや戸惑うことはありませんか?
 あまりありません。逆に「やっていいんだ!」と思うことのほうが多いですね。決して生徒の意見をつぶさずに、自分だったらこうするけれど、という言い方でアドバイスをくださいます。現役のピアニストの先生方に教えていただくことはとても大きな刺激になっています。例えば協奏曲についても、オーケストラの他のパートの楽器の演奏を配慮したテンポ感など、具体的なことを教えてくださいます。


─ロシアの学生さんのレッスンを見ていると、生徒が先生に反論しているかなり白熱したレッスン風景を目撃することがありますが、牛田さんもそんなふうにされているのでしょうか?
 みなさん本当にすごいですよね! 僕はあそこまではまだできません(笑)。でも、先生方もそういったことに慣れていらっしゃるので、いつも、理論や理由があってこうしたいという意見があるなら遠慮せず伝えるようにと言われます。生徒の意見を尊重して、一人の音楽家として見てくださるのがうれしいです。


─それにしても、身長も伸び、まただいぶ大人っぽくなられましたね。
 運動している部分の成長が早くなるのか、手が大きくなりました。これまではオクターヴが並ぶ曲だと表現にどうしても限界がありましたが、今は音色や表現もさまざまなものが出せるようになりました。思っている音が出せるようになって、嬉しいです。日々伸びているようで、無意識に前の日と同じ感覚で弾こうとすると、隣の音をひっかけてしまうことがあるくらいです。この前は、もしかして届くんじゃないかな……と思ってラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の最初の和音を押さえてみたら、アルペジオにせずに弾けるようになっていることに気がつきました。「届く!!」と思って、一人ですごく感動してしまいました(笑)。


─ピアノ以外の芸術で興味のあることは何でしょうか。学校と演奏活動でお忙しいと思いますが、息抜きには何をされていますか?
僕は、ピアノ以外は何もできないので……。ピアノは生活の一部ですし、僕からピアノをとったら何も残らないんじゃないかと思います。息抜きには、譜読みをしていますね。好きな曲を出してきて、楽譜を読んだり、弾いてみたり。
あと、読書は好きなので曲に関係している詩や文学を読むのも好きです。単純に、楽譜に載っている解説を読むのもすごく好きです。文字が好きなんです。


─牛田さんが演奏を通して伝えたいと思っていることは何でしょうか?
僕の演奏を通して、作曲家がすごく凝って作った部分、作品の中に施されている工夫や隠されたメロディなどが伝わる演奏をしたいです。そして、一つ一つに意味や気持ちが込められた音をお届けしたいと思っています。


─デビュー以来、周囲の環境やピアニストとして求められるものも変化してきていると感じることはありますか?
 以前はどんな演奏をしても自分の責任だからと気楽でいられたのが、デビューをさせていただいてから、自分の出す音や演奏に責任を感じるようになりました。また、2011年に東日本大震災があったときには、毎日被災者の方々の大変な様子が流れてくる中で、自分はこんなふうにピアノを弾いていていいのだろうかと思った時期がありました。ですが、自分自身が音楽やピアノに励まされ、支えられてきたので、僕のピアノによってお客さまに癒しを与えられたらと思うようになりました。いつもそうしたことを心掛けて演奏しています。

インタビュー:高坂はる香(音楽ライター)

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ウィーンの名門オーケストラが紡ぐ、名曲の数々
ウィーン・カンマー・オーケストラ

2014年6月5日(木) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール


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