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ベートーヴェン生誕250周年記念 首都圏8館共同制作 コンスタンチン・リフシッツ ベートーヴェンへの旅 Vol.4 in 狛江「テンペスト」 曲目解説(5/2)

コンスタンチン・リフシッツ(ピアノ) ベートーヴェンへの旅 ピアノ・ソナタ全32曲演奏会 5月2日(土)に開催のVol.4 in 狛江「テンペスト」の青澤隆明さん(音楽評論)による曲目解説をご覧いただけます。コンサートの予習に是非ご覧下さい。
 ベートーヴェンは当初、ピアノの名手として自らの道を切り開いていった。いかに独立心が旺盛で、市民の英雄と目されようとも、まだこの時代、芸術は王侯や貴族の庇護のもとにあり、職業音楽家としての自立を出版だけで叶えるのは困難だった。
 そして、ベートーヴェンのピアノは、当時の聴衆を驚かせた。《選定候ソナタ》と呼ばれる初期作から、その腕前が高い水準であったことはうかがえるが、彼のピアノの技巧と書法の刷新は、生涯のピアノ・ソナタ連作を通じて推し進められていった。
 コンスタンチン・リフシッツはここでOp.2、Op.10に続く3曲からなるOp.31をまとめて演奏する。とはいえ、Op.31は最初の2曲がまずチューリヒで出版され、第3曲が翌年に出版された。Op.31の3曲がいずれも献呈先をもたないのは、ベートーヴェンがこれらに外向的な性格を与えなかったとみることもできるかもしれない。従来の2曲ペアも含めて、これ以降、ベートーヴェンのピアノ・ソナタは1曲ごとに世に出されていくことになる。
 最後の3つのソナタOp.109、Op.110、Op.111もまた3部作をなすと考えられるが、本日はその終わりの始まりのホ長調ソナタがあわせてとり上げられる。Op.109の終楽章はベートーヴェンが得意とした変奏曲で、これはピアノの名手として即興演奏で鳴らした初期から、彼が得意としたフォームでもある。
 晩年のベートーヴェンは現実の演奏から離れて、より強く自由を希求するが、それでも変奏曲への愛着は革新家としての創造だけでなく、発想と技巧を織りなしていく展開力の顕れとして、偉才がずっと手離さなかった鍵盤への愛着を鮮やかに告げるものだろう。そこに漲るように潜むのは、即興と自由だ。それはまさしく、コンスタン・リフシッツが得意とする遊泳領域でもある。

●ピアノ・ソナタ 第16番 ト長調 Op. 31-1
 ルードヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827)がまとめたOp.31の3つのソナタは、Op.53、54、57と続くいわゆる“ドラマ的ソナタ”の最初の作品にあたる。ここで作曲家は、古典的ソナタ形式のなかに異質な要素を形式的障害として孕ませることで、新たなドラマトゥルギーを生み出している。1802年にベートーヴェンは耳の疾患から苦悩を深め、10月には「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる未投函の手紙まで書いた。しかし直前の春から夏にかけては創造の情熱に溢れ、3曲のヴァイオリン・ソナタOp.30や第2交響曲Op.36も完成させている。

 ト長調ソナタOp.31-1は、1802年の4月にチューリヒで、6月にボンで出版された。全体は3楽章で書かれ、Op.31の3曲のなかでは最も明快な構成と優雅な表情をもつ。自由な転調や調的な色彩変化にロマン主義的志向をみることもできる。第2楽章は歌謡風旋律をもつ自由な構成の幻想曲で、装飾的な変奏や展開が特徴的だ。アレグロ・ヴィヴァーチェ(ト長調、4分の2拍子)、アダージョ・グラツィオーソ(ハ長調、8分の9拍子)、ロンド アレグレット(ト長調、2分の2拍子)の3つの楽章からなる。

●ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調 Op. 31-2「テンペスト」
 Op.31の第2曲となるニ短調ソナタが、「テンペスト」の愛称で親しまれるのは、弟子のシンドラーが作品理解の鍵を教えてほしいと質問したところ、ベートーヴェンがシェイクスピアの「テンペスト(嵐) The Tempest」を読むことだと語ったと伝えられるからだ。もっともシンドラーがベートーヴェンの秘書的な立場になるのはだいぶ後年のことであり、真偽のほどは明確ではないが、いっぽうで戯曲との直接の関連をみる向きもある。本曲はまず、1803年4月にチューリヒで出版された。

 曲は3楽章構成で、いずれもソナタ形式を自在に活用している。第1楽章からアレグロのテンポを基本とするなかに、ラルゴやアダージョが現われて、曲をドラマティックに昂揚させ、多彩な転調も劇的な性格を助長する。ラルゴ-アレグロ-アダージョ-ラルゴ-アレグロと変化に富むその第1楽章(ニ短調、2分の2拍子)に、アダージョ(変ロ長調、4分の3拍子)が続き、アレグレット(ニ短調、8分の3拍子)でしめ括られる。

●ピアノ・ソナタ 第18番 変ホ長調 Op. 31-3
 1804年に出版された変ホ長調ソナタOp.31-3は律動感に溢れ、シンコペーションやヘミオラなどリズムの変化も精妙な作品だ。Op.31の3曲のうち、唯一4楽章で書かれている。緩徐楽章をもたず、第2楽章にはスケルツォを置き、メヌエット楽章を後続させる。このアレグロ-スケルツォ-メヌエット-プレストという構成は、後の交響曲第8番Op.93の楽章構成をも想起させるものだ。

 アレグロ(変ホ長調、4分の3拍子)、スケルツォ アレグレット・ヴィヴァーチェ(変イ長調、4分の2拍子)、メヌエット モデラート・エ・グラツィオーソ(変ホ長調、4分の3拍子)、プレスト・コン・フオーコ(変ホ長調、8分の6拍子)の4楽章構成。

●ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調 Op. 109
 Op.31の3部作から十数年、晩年の3つのソナタOp.109、Op.110、Op.111は、ベートーヴェンの創作の極みを伝える孤高で普遍的な美に充ちた史上の傑作となった。超弩級の大曲たる変ロ長調ソナタOp.106(「ハンマークラヴィーア」)を1818年に完成したベートーヴェンは、大作「ミサ・ソレムニス」に取りかかり、「ディアベリ変奏曲」、「第九交響曲」の作曲にもあたりながら、これら3つのソナタを書いていった。

 前作Op.106は巨大な規模やヴィルトゥオージティを誇り、厳しい論理に貫かれていたが、ホ長調ソナタOp.109ではぐっと内省的な精神の静けさを保ちながら、ロマンテックな抒情性が滲んだ美しい歌、あるいは内心への語りかけが香っている。全体の枠組みとしては、終楽章へ向かって形式的に拡大していくという、ベートーヴェンの創作上の理念が見事に反映されている。フーガと並んでベートーヴェンが重視した変奏曲の技法が、とくにこの曲の終楽章では、豊かな内的感情をもって存分に発揮される。曲は1820年秋に完成、翌年11月に出版され、アントーニエ・ブレンターノの娘マキシミリアーネに献呈された。

 ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ(ホ長調、4分の2拍子)、プレスティッシモ(ホ短調、8分の6拍子)、歌うように、心の内奥からの感情をこめて[ドイツ語表記](ホ長調、4分の3拍子)の3楽章構成。冒頭楽章は、ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポの急速部とアダージョ・エスプレッシーヴォの緩徐部をロンドふうに織りなす変則的なソナタ構成。フェルマータの終始和音が複縦線ではなく終止線で繋がって、第2楽章で同主調のプレスティッシモに入るが、ここではソナタ形式の原理を強めている。長大なフィナーレには主題と6つの変奏を置き、それもスケールの大きな性格変奏をとる。第6変奏はカンタービレで、楽章の終わりには主題の回帰がなされる。

文:青澤隆明(音楽評論)

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【Vol.4】in 狛江「テンペスト」
2020年5月2日(土)15:00開演 狛江エコルマホール
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