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ベートーヴェン生誕250周年記念 首都圏8館共同制作 コンスタンチン・リフシッツ ベートーヴェンへの旅 Vol.3 in 横浜 ・青葉台「熱情」 曲目解説(4/29)

コンスタンチン・リフシッツ(ピアノ) ベートーヴェンへの旅 ピアノ・ソナタ全32曲演奏会 4月29日(水・祝)に開催のVol.3 in 横浜 ・青葉台「熱情」の青澤隆明さん(音楽評論)による曲目解説をご覧いただけます。コンサートの予習に是非ご覧下さい。
 コンスタンチン・リフシッツを聴くことは、なかなか予測がつかない旅に出ることだ。リフシッツが得意として日本でもたびたび聴かせてきたバッハの諸作にしてもそうだが、曲は彼に演奏されるたびに表情や光景を変える。
 そんなことは、生演奏の性格上、当然のことではあるのだが、それでもリフシッツの生々しい振れ幅と情感の揺らぎは、演奏者本人もそのときどきに身を任すしかないとみえるほど、音楽そのものの生命と不可分に同化している。つまり、誰も彼をとめることができない。
 遠大な自由と即興をゆるすバッハの音楽だけでなく、はっきりすぎるほどの主張をもつベートーヴェンのような作曲家でさえも、その作品をリフシッツの手に委ねたなら、毎回の成り行きを見守るしかないだろう。
 そうしていま、2017年11月、2019年4月と7月の香港でのコンサート・チクルスからまとめたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を聴いているのだが、いまはっきりと予想されるのはただ、曲の構成も組み替えて臨むこの春の日本でのチクルスが、まったく違う様相と容貌をみせてくるに違いないということだけである。
 さて、フィリアホールでのリサイタルはベートーヴェンの番号つきソナタ連作の幕開けとなるヘ短調ソナタOp.2-1で始まり、同じくヘ短調の大ソナタOp.57「熱情」で締め括られる。その間には、変ホ長調の「幻想曲ふうソナタ」Op.27-1、ト長調のやさしいソナタOp.79をはさみ、プログラムを通じて1790年代から1800年代までの作品を、作曲家の歳月と挑戦に沿って大きく旅することになる。250年もの歳月が流れても、いつもそこは新しく始まる光景なのである。

●ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 Op. 2-1
 ルードヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827)の創作をピアノと切り離して考えることは難しい。とくにヴィーンに出て間もない頃、彼の生活はこの楽器なしには成り立たなかった。1795年にピアニストとして同地で公開演奏会にデビュー、これが評判を呼んで貴族のサロンに出入りし、レッスンを授けるようにもなった。先行するボン時代にも《選帝侯ソナタ》と呼ばれるWoO47の3作などを書いているが、ヴィーンで活躍をはじめて1800年までは、作品番号つきのソナタ13曲を書き上げるピアノ音楽創作上の充実期で、ここでの成果がやはり彼独自の交響曲や弦楽四重奏曲に活用されていくことにもなる。

 Op.2の3つのソナタは、1792年から彼が師事したハイドンに献呈されたが、早くも伝統的様式への果敢な挑戦を打ち出している。第1番で選ばれたヘ短調の調性は、先のWoO47-2でも試みていたし、後のいわゆる「熱情ソナタ」Op.57でも活かされる。4楽章構成は当時交響曲の様式として用いられていたもので、独奏ソナタで試みるのは異例なことだった。

 ソナタ第1番は、1793年から94年にかけて作曲された。4つの楽章がいずれも「ヘ」を主音とするところにバロック的伝統の投影をみることもできるだろう。アレグロ(へ短調、2分の2拍子)、アダージョ(へ長調、4分の3拍子)、メヌエット アレグレット(ヘ短調、4分の3拍子)、プレスティッシモ(へ短調、2分の2拍子)の4楽章で構成される。

●ピアノ・ソナタ 第13番 変ホ長調 Op. 27-1 《幻想曲風ソナタ》
 ベートーヴェンは1800年から01年にかけて、4曲の実験的なピアノ・ソナタOp.26、Op.27-1&2、Op.28を次々と作曲した。交響曲や弦楽四重奏の分野で初作を生み出した時期にあたり、30歳前後の偉才はここでも伝統的な様式からの離脱を実験的に強く試みていた。

 「幻想曲ふうソナタ(Sonata quasi una fantasia)」と題して出版されたOp.27は、第1曲が変ホ長調、第2曲が《月光》と俗称される嬰ハ短調の2作のカップリング。変ホ長調ソナタは、全楽章の有機的な関連が強められ、4つの楽章が続けて演奏されるほか、主要な動機を楽章の枠を越えて回帰させるなどの工夫も凝らされた。4つの楽章は緩-急-緩-急という対照性をもち、第1楽章のうちにも緩-急-緩の3部構成を採っている。

 冒頭楽章は、アンダンテ(変ホ長調、2分の2拍子)-アレグロ(ハ長調、8分の6拍子)-テンポ・プリモ[アンダンテ](変ホ長調、2分の2拍子)。アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェ(ハ短調、4分の3拍子)、アダージョ・コン・エスプレッショーネ(変イ長調、4分の3拍子)を経て、アレグロ・ヴィヴァーチェ(変ホ長調、4分の2拍子)で結ばれる。

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第25番 ト長調 Op. 79
 1809年夏に作曲され、翌年に出版されたト長調ソナタOp.79は、嬰ヘ長調Op.78とともに次に演奏されるヘ短調Op.57から4年ぶりに書かれたピアノ・ソナタとなる。自然で愛らしい魅力を放つ作品で、作品の規模も小さい。初版以来「ソナチネ」のタイトルで呼ばれるが、これは作曲家がこのト長調ソナタを「ソナタ・ファチーレ(やさしいソナタ)あるいはソナチネとしてください」と出版社に宛てたことによる。

 レントラー風の主題提示にはじまる第1楽章の展開部で、カッコウの鳴き声に似たものが聴かれることから「かっこう」のニックネームもある。曲は3楽章構成で、プレスト・アラ・テデスカ[ドイツ風に](ト長調、4分の3拍子)、アンダンテ(ト短調、8分の9拍子)、ヴィヴァーチェ(ト長調、4分の2拍子)からなる。

●ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op. 57 「熱情」
 1804年から05年の作曲と推定されるヘ短調ソナタOp.57(「熱情」)は、爆発的な創造力と劇的な情熱に溢れた、ドラマティックなソナタの真骨頂ともいえる。1802年秋にしたためた「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる未投函の書簡に象徴されるように、耳の疾患に絶望した個人的体験にもとづき、人生のドラマを創作に反映していた時期に書かれた。

 曲中に障害が突然現われて緊張を高め、その後克服へといたる展開をみせる。エラール製の最新型ピアノを贈られた時期でもあり、ベートーヴェンは前作のハ長調Op.53と同様、低音域と高音域を大胆に活用して、多彩な音色と強烈なコントラストを意欲的に生み出している。出版は1807年。

 曲は3楽章構成で、アレグロ・アッサイ(ヘ短調、8分の12拍子)、アンダンテ・コン・モート(変ニ長調、4分の2拍子)、アレグロ・マ・ノン・トロッポ(ヘ短調、4分の2拍子)、プレストのコーダで結ばれる。

文:青澤隆明(音楽評論)

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ベートーヴェン生誕250周年記念 首都圏8館共同制作
コンスタンチン・リフシッツ(ピアノ) ベートーヴェンへの旅 ピアノ・ソナタ全32曲演奏会

【Vol.3】in 横浜 ・青葉台「熱情」
2020年4月29日(水・祝)14:00開演 フィリアホール(横浜市青葉区民文化センター)
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【Vol.1】in 横須賀 「ワルトシュタイン」
2020年4月25日(土)15:00開演 よこすか芸術劇場 (問)横須賀芸術劇場電話予約センター 046-823-9999
【Vol.2】in 横浜 ・桜木町「悲愴」
2020年4月26日(日)15:00開演 神奈川県立音楽堂 (問)チケットかながわ 0570-015-415
【Vol.3】in 横浜・青葉台 「熱情」
2020年4月29日(水・祝)14:00開演 フィリアホール (問)フィリアホールチケットセンター 045-982-9999
【Vol.4】in 狛江 「テンペスト
2020年5月2日(土)15:00開演 狛江エコルマホール (問)エコルマホール 03-3430-4106
【Vol.5】in 武蔵野 「月光」
2020年5月3日(日・祝)18:30開演 武蔵野市民文化会館 小ホール (問)武蔵野文化事業団 0422-54-2011
【Vol.6】in 東京 「告別」
2020年5月4日(月・祝)14:00開演 東京文化会館 小ホール (問)ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
【Vol.7】in 所沢 「ハンマークラヴィーア」
2020年5月6日(水・休)15:00開演 所沢ミューズ アークホール (問)ミューズチケットカウンター 04-2998-7777
【Vol.8】in 川越 「最後のピアノ・ソナタ」
2020年5月8日(金)19:00開演 ウェスタ川越 大ホール (問)ウェスタ川越 049-249-3777
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