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ウィーン少年合唱団 ~団員の4年間 アウガルテン宮殿から世界へ~

ウィーン少年合唱団には、青空がよく似合います。
彼らの校舎で生活の場でもあるアウガルテン宮殿は、この季節、陽の光に白く輝き、澄んだ濃い青空にくっきりと映えます。正面には緑鮮やかな庭園が広がり、端正に刈り込まれた生け垣から野ウサギがひょっこり顔を出したり、リスが木登りをしていたりします。どの教室も、大きな窓から光がいっぱいに射し込み、緑の庭と青い空、白い雲、遠くにウィーンのシンボルである教会の尖塔までもが見晴らせる、気持ち良い環境です。ここで、約100名の団員たちは日々歌のレッスンに励み、語学や数学、化学などギムナジウム(ジュニア・ハイスクール)の授業に臨んでいます。授業はなんと朝7時半から18時近くまで。誰もが年に延べ3ヶ月は海外公演に出るので、学校にいる間に集中して学ぶのです。

昼休みになれば、サッカー大好き少年たちは建物裏のグラウンドに走り出て、1年生から4年生まで交じり合ってボールを追いかけます。彼らを見守るように繁るプラタナスの大木は、かのハプスブルク家の王妃マリア・テレジアがお手植えされたものだそう。何百年前は王家の狩場、夏の離宮だった場所に、少年たちの生き生きとした声が響き渡ります。団員たちに入団理由を聞くと、「歌うことが好きだから!」と誰もが合言葉のように答えます。幼い頃に自分の住む街にやってきたウィーン少年合唱団に魅せられたという子や、歌好き一家に育ち兄弟ともに合唱団に所属している子も複数います。遠く親元を離れてでも「ここで歌いたい!」と願った少年たちばかりなのです。実際、合唱の練習とリハーサルと本番を日々繰り返す、歌うことが中心の忙しい4年間です。好きでなければ続きません。

ギムナジムの学校長は、「歌を歌うときは幸せな気持ちになります。歌う人は幸せな生活が送れ、人を幸せにすることもできる。そのことを一番に生徒たちに伝えたい」と、自らもテノールのよく響く声でおっしゃいました。合唱団団長・芸術監督のゲラルト・ヴィルト先生は、合唱団の卒業生で、指揮者、作曲家であり、音楽愛に溢れた人物。世界各地の暮らしに根付いた歌を探しにフィールドワークに出かけ、「歌の力」を探求し続けています。歌うことは心の奥を表現すること。歌うことは生きること。そんなヴィルト先生の真摯で満ち溢れるエネルギーを中心に、合唱団の団員たちはもちろん、先生、スタッフ、合唱団OB、皆が歌の力に魅入られ、歌の力を実践しているのだと、スタッフの一人が話してくれました。彼らがいるところには、いつも歌があります。
団員それぞれにも、いろいろな機会が巡ってきます。たとえば、4年生F君のある1週間は……月曜日は海外からの団体客のためにアウガルテン宮殿で特別コンサート。火曜日は学校で数学のテスト。水曜日はオペラの録音のためフランクフルトへ。木曜日、日曜ミサでアルトのソロを歌うことが決まり、練習に力が入ります。金曜日は夕方にMuThでの公演。その前にオーケストラとリハーサル。公演では、同じく4年生のM君と二人で、英語とドイツ語での司会も務めました。週末の休みには近郊に住む両親が会いに来て一緒に過ごし、日曜日の王宮礼拝堂ミサでは立派にソロを歌いあげ、両親も嬉しそう。やや緊張の面持ちだったF君にも、満足気な笑顔がこぼれました。

こうやって少年たちは、ひとつひとつ経験を積み重ね、自信をつけて、さらに歌うことが好きになり、広い世界を知りながら、豊かな人生を歩む力をつけていくのだな、と感じます。

彼らの学校での基本的なタイムテーブルは、
6:45 準備を整え、食堂で朝食
7:30~10:50 学校で一般教科の授業
9:00過ぎ 食堂でおやつ
11:00~13:00 コーラスの練習
13:00~14:30 食堂で昼食。その後、自由時間
14:30~17:50 授業。合間に各自ヴォイストレーナーによる個人レッスン
16:00過ぎ 食堂でおやつ
18:00 夕食。その後は自由時間。
21:00 寮の部屋に戻り、21:30消灯。

団員は皆、しっかり食べてたっぷり眠り、喉を大事にするために炭酸飲料や甘いものは控え、自分の健康管理をきちんとできるよう心がけています。昼の自由時間は寸暇を惜しんでサッカーなど球技に興じ、放課後も明るいうちは屋外で遊んだり、屋内プールで泳ぐことも。今はロングボード(スケートボード)が流行中だとか。寮には卓球台やエアホッケー台もあります。もちろん、勉強もしますし、図書室で読書をしたりもします。生活すべてにおいて自主性が重んじられ、忙しくも充実の毎日。少年たちは早くから自立心を備え、音楽の道に進む子もいれば、外交官や医師、経営者などになって世界で活躍するOBもたくさんいるそうです。ウィーン旧市街、広大な王宮の一角にある礼拝堂で日曜日に執り行われるミサは、500年以上続く伝統です。清らかな少年の声でミサ曲が歌われるのも、変わらぬ伝統。モーツァルトやハイドン、シューベルトなど偉大な作曲家たちが、少年合唱のための曲をたくさん書いています。ハイドン兄弟やシューベルトは、少年時代に自身も合唱隊員としてこの王宮礼拝堂で歌い、ブルックナーは王宮礼拝堂の専属オルガニストでした。現在、ウィーン少年合唱団は教会付属ではなく、団員の宗教も問いませんが、毎週日曜日に王宮礼拝堂のミサで歌うことは活動の大きな柱であり、彼らの使命でもあります。 

ミサには、ウィーン市民はもちろん、世界各国からやって来る観光客も集います。ウィーン少年合唱団が、ウィーン国立歌劇場管弦楽団メンバーの奏でる弦楽とともに歌うのは、礼拝堂後方の4階部分にあたる高い場所。参列者には彼らの姿は見えず、だからこそ、まるで天から歌声が降ってくるかのように感じます。司祭の厳かで高らかな祈りの声、祭壇脇に並ぶ王宮礼拝堂付属聖歌隊(少年合唱団のOBも多いと聞きました)の力強い男声合唱、頭上からパイプオルガンの響き、弦楽の重奏、そして、少年たちの透き通った歌声……美しい音々に包みこまれ、誰もが浄められ癒される空間。500年分の過去と今、未来へと続く場所です。

1955年に初来日以来、ウィーン少年合唱団と日本は深くつながっています。

文:内海陽子(ライター)
ウィーン少年合唱団来日直前エッセイ(全6回) 2019年4月掲載より

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NTTアーバンソリューションズグループ Presents
ウィーン少年合唱団 2020年来日公演
<東京公演>
5月3日(日・祝)14:00 サントリーホール
5月4日(月・祝)14:00 サントリーホール
6月3日(水)14:00 サントリーホール
6月7日(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
6月11日(木)14:00 東京芸術劇場
6月12日(金)13:30 東京オペラシティ コンサートホール (アフタヌーン・コンサート・シリーズ2020-2021 前期 Vol.3 協賛:株式会社JM)
6月20日(土)18:30 東京オペラシティ コンサートホール
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