2016/10/16

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【インタビュー】エフゲニー・アフメドフ&アレクセイ・ステパニュク

 『エフゲニー・オネーギン』の初日で、レンスキー役を演じたエフゲニー・アフメドフは、2014年にこの役でマリインスキー劇場にデビューした若手テノール。友人オネーギンに決闘を申し込み、若くして命を散らす悲劇的な役を新鮮な存在感で演じた。シャイな雰囲気だが、内側に熱いものを秘めている様子が感じられる。終演後にインタビューを行った。
―今何歳ですか?
「27歳です。大きな海外公演でレンスキーを歌うのは今回が初めてで、日本も初めてです」

―大変若いのですね。オネーギンと決闘する前にレンスキーが歌う「我が青春の輝ける日々よ」は、このオペラのハイライトのひとつですが、このアリアを歌っているときはどういう気分ですか?
「レンスキーは、既に自分が殺されることを予感していたのだと思います。死に向かって、心の準備をしている…そういう状態で歌っています」

―プーシキンの『エフゲニー・オネーギン』はロシアの子供にとっては授業で必ず読む本だと聞きましたが、アフメドフさんも読んでいたのですか?
「もちろんです。誰でも小さいときから知っている話です。でも、当時は歌っていなかったので、自分が将来レンスキーを歌うことになるとは想像していませんでした。プーシキンのオネーギンとチャイコフスキーのオネーギンとでは、少し違うのです。チャイコフスキーはプーシキンよりもっとドラマティックですね」

―なるほど。今日の出来栄えはご自分ではいかがでしたか?
「厳しい意見もあるかも知れませんが、自分の今までの経験やすべてのことを考えた場合、
そんなに悪くなかったと思います」

―本物のレンスキーが舞台にいるようでした。素顔のアフメドフさんも、レンスキーのような詩的な雰囲気がありますね。
「ありがとう」

―他にはどのような役を歌われていますか?
「『愛の妙薬』のネモリーノや、『セビリアの理髪師』の伯爵、『椿姫』のアルフレードや、『皇帝の花嫁』のレイコフなどです」

―若く輝かしい声を生かしているのですね。
「そうです。自分で自分を批判しすぎず、結果を悪くしないように取り組んでいます」

―素晴らしい心がけだと思います!
「(はにかんだ笑顔で)ありがとうございます」

『エフゲニー・オネーギン』の幕が開いたときに最初に目を奪われるのは、無数のリンゴを階段の上にちりばめた、夢の中の風景のような幻想的な装置だ。背景には雲が流れ、空からブランコが吊る下がり、大きな干し草の傍では、恋人たちが愛を語らう。美術だけでなく、人物の内面描写も繊細だ。このオペラでは、つねに「予感」が現実を先取りする。タチヤーナはオネーギンの拒絶に合う前から失恋を予感し、レンスキーは決闘を決意した瞬間に死を受け入れる…そうした物語に特有の心理状態も、これほど鮮やかに見せられたことはない。演出を手掛けたのは、ゲルギエフと長年共同作業を続けているベテランのアレクセイ・ステパニュク。大柄で眼光鋭く、創造力の塊のような迫力のある人物だった。
―ステパニュクさんの演出は印象的で、一幕では屋内と屋外が一緒になっているような幻想的な舞台でした。
「これは私が決めたことではなく、詩人のプーシキンが決めたことなのです。彼は人の悲しみや移り変わる心を、自然と切り離して考えなかった。魂の変化を自然に投影し、私はそれに倣ってプロジェクションの雲や美術を作りました」

―とても美しいヴィジュアルです。タチヤーナの揺れる心も痛いほどに伝わってくる演出ですね。
「プーシキンは、タチヤーナのドキドキする心をもっと客観的に突き放して…幾分かは揶揄するように描いているのですが、チャイコフスキーはもっと悲劇的にとらえています。プーシキンの小説には、賢くない人は一人も出てきません。皆とても聡明で、ばかばかしい人はいないのです。しかしチャイコフスキーのオペラでは違う。二人の考え方の違いをどう合わせていくかが、難しい点でした」

―チャイコフスキーのオペラでは、プーシキンほど登場人物は「賢くない」のですね。
「若々しく、瑞々しいのです。今回の上演は、マリインスキー始まって以来の試みかもしれません。つまり、チャイコフスキーはこのオペラを熟練した歌手たちが歌うことを望まず、モスクワ音楽院の学生たちによって初演しました。それと同じように、今回はマリインスキーのアカデミーの卒業生をはじめとする若手をキャスティングしています。若い歌手が若い感情を表す、ということが、このオペラが求めていることなのです」

―なるほど。オペラの本質に立ち返っているわけですね。タチヤーナがオネーギンから手紙を突き返されるシーンでは、決闘のシーンを先取りするような寒々しい灰色の森の景色が表れ、これにも驚きました。
「大きなパッションというのは、死につながるかも知れない…という予感を見せることが出来たかも知れません。プーシキンもチャイコフスキーも短命な芸術家でしたから、つねにそのことを予感していたのだと思います」

取材・文:小田島 久恵 (音楽ライター)

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「エフゲニー・オネーギン」
10月16日(日) 14:00
公演の詳細はこちらから

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