2016/10/6

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パーヴォ・ヤルヴィに聞く![ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団]

これまでに多くのオーケストラを指揮してきたパーヴォ・ヤルヴィ。ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団との関係は、2004年に芸術監督に就いてから数えても既に12年が経過した。パーヴォの公演には常に明確なコンセプトがあるが、中でもドイツ・カンマーフィルと共演する際にはその傾向が強い。これまで全世界で展開してきたベートーヴェン、シューマン、ブラームスのツィクルス(全曲演奏)は、その濃い内容と演奏に高い評価が寄せられているが、今回の来日ツアーは、この三人の作曲家の作品をまとめて取り上げる“集大成”とも言えるプログラムになった。

<これまでの集大成といえるプログラム>
「このオーケストラと初めて演奏してからはもう20年が経ち、一緒に育ってきた家族ともいえる関係になりました。ベートーヴェン、シューマン、そしてブラームスは、彼らとの共演の中でほとんどの時間を費やしてきた作曲家です。今回のツアーは、この三人の作曲家を演奏してきて築き上げたものをはじめ、彼らと世界を周り、生活を共にしてきたことも含めて、私たちの共演の集大成とも言えるものです。しかし、まだ終わりではありません。今はブラームスに集中的に取り組んでいますし、今後も様々な計画があります。」

これまでに集中的に取り組んできた三人の作曲家の作品をまとめて演奏することは、これまで行ってきた、それぞれの作曲家のツィクルス演奏会とは違う感覚になるのだろうか。
「通常のコンサートでは最低でも二人、多くて四人程の作曲家を取り上げますよね。ただドイツ・カンマーフィルとは、いままで特定の作曲家をとりあげる演奏会がメインでしたから、こうして三人を一緒にとりあげることは新鮮であり、とても嬉しいことでもあります。また、これらの作品は、明確ではないかもしれませんがつながりが強いです。共通点を見つけながら三人の作曲家の作品を皆さんにご紹介していけたらと思っています。」

今回の来日ツアーでは、交響曲だけでなく、ブラームスでは「ハイドンの主題による変奏曲」、またベートーヴェンでは樫本大進をソリストに迎え、「ヴァイオリン協奏曲」といった作品も演奏される。
「選曲はシンプルな理由、内容の濃い作品を皆さんに聞いて頂きたいと思ったからです。また、大進と共演できることも幸せです。彼が素晴らしい音楽家だということは皆さんもよくご存知でしょう。さまざまなことを熟知し、作品像を凄く自然に捉えていきます。そして、ブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』は非常に大変な曲ですが、同時に素晴らしくチャーミングな作品です。」

<探求して創り出す“私たちの”演奏法>
現在はブラームスを中心に取り組み、昨年末にはついに交響曲第2番や2曲の序曲の初録音を行ったパーヴォ。レコーディングによってブラームスに対するアプローチに変化はあったのだろうか

「ドイツ・カンマーフィルと録音をする時には特に、事前にできるだけたくさん演奏をし、作曲家と作品を“探求する”ということを大切にしてきました。例えばブラームスなら、ツィクルスの演奏を世界中で最低でも10回はしました。作曲家を深く探求するということは、発見や解釈の変化が沢山出てきますし、その作曲家に深く浸れるということになります。また、私はオーケストラに何かを一方的に伝えるのではなく、“一緒に”私たちの演奏法を見つけていくことを大切にしているのです。」

パーヴォはドイツ・カンマーフィルとの共演にあたっては、特にディスカッションを大切にしているという。
「指揮者と演奏者が同じような考えをもって演奏できることが必要です。私の意図を納得した上で彼らに演奏してもらえなければ、いい演奏にはなりません。そのためにリハーサルは綿密に行い、彼らからの意見も積極的に取り入れています。オーケストラのメンバーそれぞれが、自分の声が聴き届けられていると自覚し、またひとりのアーティストであるという意識があるというのも大きいですね。それは演奏のモチベーションに大きく影響してきます。」

<ドイツ・カンマーフィルの魅力はバロック音楽への精通から生まれている>
膨大なレパートリーを持ち、共演するオーケストラによってプログラムを変えているパーヴォ・ヤルヴィ。ドイツ・カンマーフィルとはドイツ音楽の“王道”といえる作品を選曲し続けてきた。

「やはり彼らがドイツの音楽をレパートリーの中心とし、それにふさわしい音色をもつオーケストラだからです。初めて彼らを指揮したとき、いつか自分がベートーヴェンを録音することになったら、このオーケストラと一緒にしたいと強く思いました。このオーケストラの素晴らしいことは、ベートーヴェンをレパートリーの核とし、さらにバロック時代の音楽にも精通し、演奏法についても熟知していることが挙げられます。これは大きな利点です。」

バロック音楽に精通し、熟知していることはこれまで取り上げてきた三人の作曲家の作品を演奏するにあたってどのような利点があるのだろうか。
「この三人はバロック音楽に造詣が深く、自身の作品にそれを活かした作曲家なので、オーケストラが古楽を経験していることは、例えば、ブラームスのオーケストラ作品にはコラールがよく出てきますが、古楽の響きを実感として知っているのと知らないとでは響きがまったく変わってきてしまいます。」

ドイツ音楽に対する幅広い知識と演奏法に熟知しているドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団。それではサウンドそのものの魅力はどこにあるのだろう。
「彼らの最大の魅力は、作曲家によって音が変わることです。ベートーヴェンの場合だと男性的でまっすぐなインパクトのある音、シューマンやブラームスではもっと抒情的に…という具合です。ビブラートのかけ方も作品や作曲家によって変化をつけているんですよ。」

最後に日本の聴衆にメッセージをもらった。
 「今回、私たちは自分たちにとって最も重要なレパートリーを皆様の前で演奏します。これは一つの集大成なので、ぜひ私たちの進化を感じて頂きたいです。なぜなら日本の皆さんは、このプロジェクトにとって重要な存在だからです。ベートーヴェンのツィクルス演奏会は横浜ではじまりましたし、シューマン、ブラームスも日本の多くの場所で演奏してきました。プロジェクトの大切な一員だと言えるでしょう。今回は樫本大進との共演もあり、よりダイナミックな音楽をお届けできることと思います。私たちの愛する三人の作曲家の素晴らしい作品を、堪能していただきたいです。」

取材・文:長井進之介(ピアニスト・音楽ライター)

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世界を驚倒させた名演の数々、新伝説へのプロローグ!!
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団 (ヴァイオリン:樫本大進)
2016年12月5日(月) 19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
公演詳細はこちらから

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