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【インタビュー】小林研一郎と幻想交響曲

来たる10~11月、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団とベルリオーズの《幻想交響曲》を披露する小林研一郎のインタビューです。

 小林研一郎にとって、10~11月にハンガリー国立フィルと演奏するベルリオーズの《幻想交響曲》は思い入れの深いレパートリーである。
 「あれは狂気の世界ですね。地獄落ち、天国との対話、自らは浄化されずに天上へ昇る感覚、うめき……人間の感情が極端な振幅の中に存在していて、自分の内面を全て吐露することができる。ベートーヴェンのように厳格に一つのテンポで統括され、わずかな揺らぎしか許されない世界とは対極にあります。だからこそ自分に合う曲だと思ったのですね」
 《幻想》を指揮したい、という欲求にかられたのは東京藝大指揮科へ入学したころ(1966年)。小林青年は26歳になっていた。周知の通り、マエストロはもともと東京藝大作曲科の出身。首席で入学、卒業時に書いた《交響曲》は優秀作品に選ばれ将来を嘱望されたが、当時の前衛技法全盛の風潮に馴染めず、苦悩の末、再現芸術の可能性に気づいて指揮科へ再入学を果たしたばかりだった。
 そうした若き日の葛藤が、《幻想》の作品世界と共振したのかもしれない。指揮科の卒業試験で、小林は《幻想交響曲》を演奏した。

 「この時、恩師・山田一雄先生の評価は散々なものでした。“勝手に卒業しなさい”という感じで。実は、卒業の少し前から、私は忠実にレッスンを受ける学生ではなかったのです。先生の高みを理解しながら、とてもそこへは到達できないもどかしさが募り……。不勉強な自分は、当時、先生には破門同然でした。口をきいていただくことさえままならない。しばしば先生のご自宅へ伺い、許しを得て、再びレッスンを受けられるまで、卒業前の時期を含め半年ほどかかりました。
 以来、先生も意気に感じてくださったのか、コンクール前ともなると週2回、1回に半日以上割いてレッスンをしてくださることもあったのです。ブダペスト指揮者コンクールの優勝(1974年)は、山田一雄先生なしには決してあり得なかったですね」
 コンクール優勝直後、ハンガリー楽壇へのデビューとなったハンガリー国立放送響の定期演奏会で指揮したのは《田園》と《幻想》。聴衆の熱狂はすさまじいほどであったという。翌1975年のハンガリー国立響(現ハンガリー国立フィル)との演奏会でも、小林は《幻想》を指揮。以後、この曲は一貫してマエストロの得意レパートリーであり続けている。
 「コチシュさんの時代を迎えて、ハンガリー国立フィルは颯爽とした、引き締まった演奏をするようになりました。その方向性を自分は心から尊敬するのですが、今度の《幻想》ではオーケストラを揺り動かすような衝撃を、どこかに持たせたいと考えています。音楽というものはやはり、心から湧き出すメッセージを互いに突き合わせていくものですから」
 ハンガリー国立フィルとの《幻想》、何かが起こりそうだ。

取材・文:友部 衆樹(音楽ライター)

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ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団
ゾルタン・コチシュ指揮 リスト&ドヴォルザーク
ピアノ:牛田智大
2016年10月25日(火) 19:00開演 すみだトリフォニーホール
小林研一郎指揮 ベルリオーズ&メンデルスゾーン
ヴァイオリン:松田理奈
2016年10月31日(月) 19:00開演 東京芸術劇場 コンサートホール
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