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舘野泉のインタビュー[傘寿記念コンサートに向けて]

11月に80歳の記念公演を行う舘野泉のインタビューです。

―80歳の記念公演では、4つのピアノ協奏曲を演奏されます。大変なプログラムですが、舘野さんのことですから、きっと大変なこととは思っていらっしゃらないのでしょうね。

そうですねぇ。そんな大変なことをするつもりはまったくありませんね。弾きたいと思う曲を選んでいったら、4つになってしまった(笑)。
まず、必ず日本人作曲家による左手のためのピアノ協奏曲は入れたかったので、池辺晋一郎さんの作品を演奏します。
そしてヒンデミットの協奏曲は、ラヴェルの左手の協奏曲と同じく、第一次世界大戦で右手を失ったP.ヴィトゲンシュタインの委嘱で書かれたものです。
実は6月に坂入健司郎さんの指揮で東京ユヴェントス・フィルと日本初演をしました。彼らは慶応の卒業生によるアマチュアオーケストラで、若く好奇心があります。練習場でのリハーサルを経て、いざ本番のホールで演奏してみると、音がキラキラ輝いて、生き生きと迫ってくる。なんてすばらしい音楽だろうと思いました。弾くにはすごくエネルギーが必要なんだけれど、とても素敵なレパートリーになると思います。

―同演奏会で初演し、今度の記念公演でも取り上げる「オーケストラと左手のためのファンタスティック・ダンス」を書いたシュタールは、シベリウスアカデミーでの教え子だそうですね。

はい。彼が、満足のいく良い曲ができたからと協奏曲を献呈してくれました。「ファンタスティック・ダンス」は、自由なイメージとともに飛躍するような作品。実に緻密に書かれています。今度の指揮は高関健さんですが、彼は頭脳明晰で音楽の組み立てにも夾雑物がない。きっと精妙に表現してくれるだろうと楽しみにしているんです。僕、好きなのあの人(笑)。

―そして、ラヴェルの左手のための協奏曲は、何度も演奏していらっしゃるレパートリーですね。

東京芸大を卒業してすぐの頃からこの曲が好きだったんだけど、当時なかなか日本のオーケストラは取り上げてくれなかった。それが、左手のピアニストとして復帰してからは、もう40回近く演奏しましたね。
脳出血で倒れて半身不随になって、ピアノなんか弾けるかどうかもわからなかった頃、音楽関係の友達が見舞いにきてくれました。何も言えなくて困ったような顔をして。それで、「あ、あれ弾けばいいんだよ、ラヴェルの左手のコンチェルト。お前、やることがあるじゃないか」って。……何を言ってるんだよ、ラヴェル1曲だけ弾くピアニストになれっていうのかよ。それに、弾きたいといっていたこれまでの40年間、一回も弾かせてもらえなかったのに、って思いましたね。慰めてくれている気持ちはわかるんだけど、悔しくて腹の中は煮えくり返るようだった。
ラヴェルもヒンデミットもそんな感じで昔は取り上げてもらえなかったのですが、今回は東京公演の前に南相馬でも演奏できることになって、嬉しく思っています。

―舘野さんがこれほどいろいろな新作やプロジェクトに踏みだせるのは、できるようになる瞬間がくるとわかっているからなのでしょうか? できるかわからないことに踏み出すには、普通とても勇気がいると思うのですが……。

うん、そうですね。僕の場合は踏み出して新作をやってみなくてはやることがないというのもあるけれど(笑)。大変かもしれなくても、できるかできないか考えているだけではなく、とにかくやってみないと。踏み出してみるか否かは、大きな違いですから。もちろん、準備不足だから踏み出さないという、清水の舞台から飛び降りる覚悟ができないタイプの人もいて良いと思うけど。

―そういう人もいるから社会のバランスが保たれているんですかね。

そうそうそう。

―舘野さんは、どんどん踏み出してみんなを引っ張っていきますね。いつ頃からそういう感じなのでしょうか。お子さんの頃から?

“お兄ちゃんは常識がないよ”って、昔から言われてた(笑)。でもね、何かを前向きにやってみることで、今まで見てきたのとはずいぶん違う世界が見えてくるものです。重箱の隅をつつくことで見える深い世界とは、また違った発見ですね。
一般的にはこうだという考えに縛られていると、限られたところから出られなくなる。もっとみなさん自由になってください、踏み出すと大きな違いがあるから、とにかく一歩足を出してごらんなさい、というのが僕の考えです。……僕にしてみればいつもやってることだから、どうってことないんだけどね(笑)。

取材・文:高坂はる香(音楽ライター)

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80歳最初の挑戦 4つのピアノ協奏曲 心を揺さぶる人生讃歌
舘野泉 傘寿記念コンサート

2016年11月10日(木) 19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
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