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インタビュー:ウリヤーナ・ロパートキナ [マリインスキー・バレエ]


Q:今回、マリインスキー・バレエが初めて外国で『愛の伝説』を上演します。その場所が日本で、さらにあなたに主演していただけることをとても嬉しく思っています。あなたがこの作品を初めて踊ったのは、いつのことでしょうか?
ウリヤーナ・ロパートキナ(以下、UL):私が初めて『愛の伝説』のメフメネ・バヌーを踊ったのは1998年のことでした。マリインスキー劇場バレエ団に入団して7年目で、その3年前にはソリストに昇格していました。芸術監督は当初、私にメフメネ・バヌーの妹であるシリン役をやらせようと思っていました。若くてロマンチックな役で、私の年齢相応と考えたのでしょう。でもその提案があった時、私はこれを断ってメフメネ・バヌーをやらせてほしいと直訴したのです。力強くて、他を威圧する迫力、情熱的で、窺い知れない内面性、恐ろしさを秘めた姉のメフメネ・バヌーの方が私には魅力的に思えたのです。実際に稽古に入ってみると、この役にますますのめり込みました。メフメネ・バヌーは尋常ならざる人物で、その立ち居振る舞い、行動は矛盾に満ちていて、善も悪も、良さも悪さも彼女の中では同居しているのです。それはまさに実際の人間の実生活そのものなの。一人の人間が肯定的な面も、否定的な面も同時に持ち合わせていることはごく当たり前のことなのですから。


Q:『愛の伝説』はマリインスキー・バレエで初演された作品ですね。どのような準備をなさったのでしょうか?
UL:メフメネ・バヌー役の稽古で私を指導してくださったのは、すでにお亡くなりになったニネリ・クルガプキナ先生でした。私は手の動きの構図を細かく研究しました。それはとても特異で、私には東洋の文字や、東洋の書体に似ているように思えました。まるで手を使って東洋の言語で文章を書くような感覚なのです。この作品の舞踊の動きにも独特なものがありました。手と脚の動きを組み合わせていくと《文章》になり、そこにはたくさんのシンボルがあるのです。舞踊のテクニックはあくまでクラシックなのですが、ジェスチャーやポーズはグラフィックなものになっているのです。鋭角的な動きと滑らかな動き、硬と軟が巧みに組み合わされているのです。作品全体に東洋のテーマが貫かれています。この複雑な構図をしっかりと身体に叩き込んで、完璧に自分のものにしなければなりませんでした。もちろん、全編にわたって踊りの技術的な難しさもありました。それも含めて、完璧を目指したのです。


Q:この作品では、姉妹の愛、報われる愛、報われない愛と嫉妬など、さまざまな愛の葛藤が描かれます。最初に踊り始めた時と比べ、この作品に対する考え方に変化はありましたか?
UL:愛はこのバレエの主要なテーマです。いつ踊っても、踊り甲斐のある作品です。私は自分自身に問いかけてみることがあります-「この力強くて、気高くて、富や権力よりも外面的な美しさに価値を置いていたこの女性が、いくら愛する妹の命のためとはいえ、いかにして自分の美しさを犠牲にすることができたのだろうか?自分が愛した男性を妹シリンも愛していると知って、愛する妹をあれほど憎んだのはなぜだろうか?フェルハドが美しいシリンを愛していると知った時、醜い顔と若い肉体を持つ女王はどのような苦悩に苛まされたのだろうか?二人の愛がいかに強固であるかを試すために、メフメネ・バヌーは二人にどのような拷問を科そうとしたのだろうか?」 妬み、嫉妬、出口のない閉塞感、絶望-こうした感情がメフメネ・バヌーの心に渦巻いていたのでしょう。主人公の感情の様々な色彩、濃淡をあますことなく伝えるというのはダンサーにとってはなんとやりがいのあることなのでしょう!私は年齢を重ねるにつれて、この女性にますます共感を覚えるようになりました。人生経験を積むということは自分自身をより深く知るということでもあります。自分の心が実際にはどのような状態にあるかを分からせてくれるのは、時間と、そして、今自分が置かれている状況だけなのです。往々にして人は自分のことを良く知っているつもりでいても、それとは全く異なる行動をとる時があります。全てはその人が置かれている状況次第なのです。私は意識的に自分をメフメネ・バヌーの立場に置き換えてみることがあります。私がメフメネ・バヌーだったら、どうするだろうかと考えるのです。



Q:グリゴローヴィチの特別な踊りは、クラシック作品と比べ、どのようなことに気をつけて踊っていらっしゃいますか。
UL:グリゴローヴィチはこの作品では演出を重視していたように思います。一つの幕が次の幕に代わると、作品の雰囲気もがらりと変わります。まるで本のページを手繰るように、私たちは新しい章を開き、物語が進展していく様子を読むことができるのです。舞台装置はとてもシンプルで、象徴的です。舞台装置はページがぼろぼろになった大昔の本なのです。それぞれのページにはこの物語の中の出来事が起こった場所と時代がおぼろげに示唆されているだけです。これらのページには時間の流れの中で擦り切れてしまった文字が見えます。まさにこの本の中から、愛の伝説の主人公たちが蘇って登場してくるのです。ただし、それは生身の人間ではなく、文字であり、フレーズであり、記号なのです。それが生きた人間に変身するのです。私はこの作品のスタイルが大好きです。それは私を子供の時代に引き戻してくれるからです。メルヘンの世界が生き生きとした現実の世界だと信じ、奇跡を信じ、ハッピーエンドが待ち受けていると信じていたあの頃に連れて行ってくれるのです。
このバレエの中で私が特に重要だと思うのは、動きの正確なグラフィックスを描くということです。それがお客さまにバレエのスタイルを示すことになるのです。そして、このシンボリックな動きに、生々しいリアルな感情、主人公の揺れ動く思いを吹き込んでいかねばならないのです。そういう意味でアリフ・メリコフの音楽には随分と助けてもらいました。私は音楽のテキストのメロディ性、熱情によってインスピレーションが掻き立てられました。上演中に力が尽きそうになる時(とても密度の濃い役で、肉体的な消耗がとても大きいのです)でさえも、疲れ切った時でさえも、《追跡》の場面(シリンとフェルハドが一緒に逃走した時、メフメネ・バヌーが怒りに駆られて追手を送り、二人を捕らえようとする)の音楽を聴くと、信じられないほどの力が湧いてくるのです。


Q:あなたの踊りからは、様式美を感じ、だからこそ登場人物の感情をより深く感じられるように思います。様式と感情、このバランスをどのように考えていますか?
UL:様式と感情!とてもいい質問です。様式、あるいはスタイルというのは稽古場で形作られます。これは先生とダンサーとの共同作業なのです。作業の様子は映画作りにも似ています。この場合、先生は俳優の動きを直しながら、フィルムを回し、映像を撮っていく映画監督のようなものです。そしてダンサーは俳優であり、演出家の要求に耳を傾けながら、映画の構想を正確に体現して、役の個人的な解釈を実体化することを求められます。すべては先生がスタイルをいかに正しく理解しているか、そして、ダンサーがどのように受け止め、稽古していくのかにかかっています。二人の共同作業が実を結ぶかどうかは二人のスタイルが同じであるか、あるいは、とても近いものであるか、にかかっています。
そして、感情とは? 感情は《練り上げられ》たものであり、肉体運動の中で、動きの振幅の中で、稽古を繰り返して準備されたものでなければならないのです。バレエとは感情や情緒を肉体の動きで形象化することなのです。なぜなら、私たちダンサーには言葉がありません。あるのは動きとマイムだけなのです。言い換えれば、《感情の絵》を描くということであり、決して簡単なことではありません。ここでも先生が助けてくれます。リハーサルや公演をビデオカメラで撮影することも助けになります。ビデオ素材は費やした努力の成果を示してくれます。ダンサーはそこで自分を客観的に見て、踊っている時の自分の感覚と、観客が見ている情景を合体させることができるのです。
感情を《準備》しなければならないのか?と問われれば、私は「イエス」と答えざるを得ません。しかし、バレリーナが舞台に出て行く時、魂と心を自由に解き放つためには、稽古場での作業を活用しなければならないのです。私にとって大切なことは《音楽の中に》に融け込み、作品の本質に没入し、バレエの観念の中に《実人生》を注ぎ込むことなのです。バレエ作品の中で主要な観念とは何か? それは魂の苦悩であり、愛、苦しみ、幸福、歓喜、思索、再生なのです。


Q:あなたのドキュメンタリー映画が来年公開されます。なぜこの映画の撮影に応じられたのですか?
UL:ロシア・バレエのファンの方がドキュメンタリー映画を撮ろうと提案してくださったのです。バレエの中における愛について観客の皆さんと考えてみようということで提案を受け入れました。そして、撮影の時期と、『愛の伝説』の稽古の時期が偶々重なり、まさに、映画の趣旨に沿うような形で撮影が行なわれました。



Q:この映画でも『愛の伝説』は何回も出てきますね。あなたにとって『愛の伝説』はどのような作品でしょうか。
UL:私にとって『愛の伝説』はどのような作品か?私の大好きな作品の一つです。『ジゼル』、『ライモンダ』、『バヤデルカ』、『白鳥の湖』といった叙情的なバレエでは《熱情》(テンペラメント)というものは滅多に要求されることがないのですが、この作品では自分がいかに《熱情》を表現できるかを試すチャンスでもあります。また、このラブストーリーでは、主人公の感情や考えが多彩で揺れ幅が大きく、いつもこの役を楽しんで演じ、踊っています。

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世界のバレエの至宝。ロシア芸術の都サンクトペテルブルグの高貴な華
マリインスキー・バレエ<キーロフ・バレエ>
2015年来日公演



詳細はこちらから

「ジュエルズ」
 11月26日(木) 18:30 文京シビックホール大ホール
「愛の伝説」
 11月27日(金) 18:30 東京文化会館
 11月28日(土) 13:00 東京文化会館
「ロミオとジュリエット」
 11月30日(月) 18:30 東京文化会館
 12月1日(火) 18:30 東京文化会館
 12月2日(水) 13:00 東京文化会館(平日マチネ公演)
「白鳥の湖」
 12月4日(金) 18:30 東京文化会館
 12月5日(土) 12:30 東京文化会館
 12月5日(土) 18:30 東京文化会館
 12月6日(日) 13:00 東京文化会館