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デビュー50周年 ベルリン・フィルハーモニーで祝福を受けたツィメルマン


 10月3日、クリスティアン・ツィメルマンがベルリン・フィルハーモニーの大ホールでリサイタルを行った。
 ツィメルマンとベルリンとの関係は深い。弱冠19歳でショパンコンクール優勝を飾った翌1976年、ツィメルマンはブロムシュテット指揮ベルリン・フィルとショパンのピアノ協奏曲第1番で共演し、早くもベルリン・デビューを果たしている。その成功が後のカラヤンやバーンスタインとの共演につながったことは言うまでもない(ちなみに、今シーズンもラトル指揮のベルリン・フィルと数度の共演が予定されている)。今回は縁の深いベルリン・フィルの主催で、ツィメルマンの舞台デビュー50周年のリサイタルが開かれるとあって、会場は当日券を求める人の長蛇の列で熱気に溢れた。
 プログラムは、ツィメルマンのこれまでの舞台人生の中で、特に思い入れの深い曲目から選ばれたという。前半はドビュッシーで、《版画》の〈塔〉から、照明の落とされた舞台から放射されるツィメルマンの美しい音色に息を呑んだ。続く前奏曲集では、構成力も光る。第1巻の〈帆〉から、〈ミンストレル〉、〈雪の上の足跡〉、〈亜麻色の髪の乙女〉と続き、中でも最後の〈沈める寺〉と〈西風の見たもの〉が圧巻。前者では繊細を極めた弱音が聴き手に浮遊感を誘い、後者は研ぎすまされた緊迫感で圧倒した。しかも、彼はどんな箇所を弾いても決して乱暴になることなく、音楽に高い品位が保たれているのだ。
 後半はお国ものポーランドの作品。ツィメルマンの故郷への思いが伝わってくるかのような、慈愛に満ちたシマノフスキの〈3つの前奏曲〉。そして、ショパンのピアノ・ソナタ第3番。この曲を見事に演奏するピアニストは世界中に数多くいるだろうが、完璧なテクニックはいうまでもなく、豊かな詩情と、華やかでありながらも、地に足の付いた内面性をともなって聴かせることのできる人が、ツィメルマンの他に果たしてどれだけいるだろうか。ショパンの音楽で、ここまで心を揺さぶられたのは筆者にとって稀な経験だった。
 喝采が止まぬ中、ツィメルマンはピアノの椅子に座ったまま、聴衆に向かって訥々と語り始めた。
 「私が1976年に初めてフィルハーモニーで演奏したとき、すぐ近くには壁があり、周囲の風景も今と全然違いました。今日ここで演奏できることを光栄に思います。今回のプログラムにドイツ人作曲家の作品を入れなかったのは皆さんに対して非礼でした。最後にもう1曲を」
 こう言って、ツィメルマンはベートーヴェンの月光ソナタの第1楽章を弾き始めた。あの物悲しいメロディーが、あれ、長調に変わり、いつの間にか「ハッピーバースデー」のメロディーになっているではないか。この日はドイツの統一記念日だったのだ。ツィメルマンのあたたかい人間性が、会場全体を包み込んだような気がした。
 『デア・ターゲスシュピーゲル』紙は、今回のリサイタルを「小さな奇跡」の見出しで絶賛した。12月の日本公演では、まさに円熟の極みにあるツィメルマンを目撃することになるだろう。

文:中村真人(在ベルリン/ジャーナリスト)

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クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル

2012年12月04日(火) 19時開演 サントリーホール
2012年12月11日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
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