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テミルカーノフが最も信頼を寄せるピアニスト、女流巨匠ヴィルサラーゼ

エリソ・ヴィルサラーゼインタビュ
終わりのない、しあわせな仕事



エリソ・ヴィルサラーゼのコンサートは、日本の聴衆にとっては待望久しいものだ。トビリシの芸術一家生まれ、ロシア・ピアニズムの多様な名匠と交流しながら、独自の個性を育んできたヴィルサラーゼは70代に入った現在も、ピアノ演奏や後進の指導に強い情熱を注いでいる。
 2013年6月には、仙台国際音楽コンクールの審査員として日本を訪れ、公開マスタークラスも実施した。このインタヴューもその折に同地で行われたが、神経質で気難しい芸術家を想像して臨んだものの、ヴィルサラーゼはひとつひとつの質問に対し、温かく飾らない言葉を返してきた。もちろん、しっかりとした芯が厳しく通っていることは言うまでもない。
 祖母アナスタシア・ヴィルサラーゼ、その友人だったゲンリヒ・ネイガウスに教えを受けた彼女は、モスクワ音楽院ではヤーコブ・ザークに師事し、レフ・オボーリンのアシスタントも務めたほか、スヴャトスラフ・リヒテルとも交流が深かった。「大学院時代にオボーリンの助手として教え始めましたが、自分がもらったものを伝えるとことよりまず、私は若い頃から教えることが好きだったんですね。若い人たちと交流し、音楽家にならずとも、いろいろな分野に巣立っていく子どもたちと接することは、私には非常に大きな喜びですね」とエリソ・ヴィルサラーゼは朗らかに語った。ベレゾフスキーやヴォロディンは彼女のよく知られた弟子だが、彼女の望んだとおり、それぞれに異なる個性を育んでいる。
音楽に対するアプローチは、演奏者としても教育者としても「絶対的に変わるところはない」とヴィルサラーゼは言う。「音楽家にとってまず大切なのは、音楽を愛する気持ちです。音楽のなかの自分を愛するのではなく、音楽そのものを愛すること。そして、作品はいつも上位にあり、どんな演奏よりも素晴らしいものです。どれだけそれに近づき、どれだけ深く掘り下げられるか。私たちの仕事には終わりがない。作曲家や画家が作品を仕上げるのとは違って、私たち演奏家にはでき上がりというものがありません。仕上げられた作品に、さらに自分たちの想像力をのせて、それを聴衆に伝えるわけです。もっともっと良くしようと、いつも私は思っています。終わりのない、とてもしあわせな仕事です」。
ヴィルサラーゼは20歳前後のとき、1961年に全ソヴィエト連邦音楽演奏家コンクールで第1位、翌62年の第2回チャイコフスキー国際コンクールでは第2位となり、さらにて66年にはツヴィカウのシューマン国際コンクールで第1位となって世界的な注目を集めた。以来、半世紀にもおよんで、ピアニストとしての探求を続けていることになる。自らの楽器として長年関わってきたピアノとは、彼女にとってどのような存在なのだろうか? 「ピアノは大好きですよ。愛情を注げば注ぐほど、どんなふうにもかたちを変えてくれる生き物です。ほんとうに無尽蔵な可能性を秘めています」。
 2014年の来日では、日本では11年ぶりとなるリサイタルで、モーツァルト、ブラームス、ハイドン、シューマンの凝ったプログラムを演奏するほか、ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団とチャイコフスキーの第1協奏曲を共演する。1999年の来日でも彼らとの共演で、シューマン、そしてチャイコフスキーのこの協奏曲を共演していた。50を超える協奏曲レパートリーをもつというヴィルサラーゼだが、チャイコフスキーの第1番はテミルカーノフとしか共演しないと伝えられるほど、名匠への信頼は篤い。「ムラヴィンスキーの長い時代のあとで、ヤンソンス、それからテミルカーノフが前任のもとでの副指揮者の時代を経て、それぞれオーケストラを引き継いでいます。テミルカーノフともオーケストラとも、私はもう長年共演を重ねてきました。マエストロにしてもオーケストラにしても、音楽家としての私も、人間としての私もまたご存知ですから、そのあたり気持ちが楽に演奏できるのもいいところですね」とヴィルサラーゼは言った。「もっとも、まったく同じ演奏など決してあり得ません。誰と共演するにせよ、私は演奏するたびに、いつもなにか新しいものを感じることができます」。

取材・文 青澤隆明

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ユーリ・テミルカーノフ指揮
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

2014年01月26日(日) 14時開演 横浜みなとみらいホール
2014年01月28日(火) 19時開演 サントリーホール
2014年01月29日(水) 19時開演 サントリーホール

<出演>
芸術監督・首席指揮者 :ユーリ・テミルカーノフ
ヴァイオリン:庄司紗矢香<1/26出演>
ピアノ:エリソ・ヴィルサラーゼ<1/28出演>
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

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