2020/4/23

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「サンクトペテルブルグ・フィル 公演プログラム 寄稿エッセイ ご紹介」~ニコライ・アレクセーエフ インタビュー (取材・構成:ジャパン・アーツ 編集:柴田克彦)

生まれ育ったサンクトペテルブルグで音楽活動ができる幸せに感謝しています。
<ニコライ・アレクセーエフ インタビュー>
─ マエストロとサンクトペテルブルグ・フィルとの関係は、20年以上になりますね。

 常任のポストに就いて20年たちますが、その前から定期的に指揮していますので、“付き合い”はもっと長いですね。

─ 最初に指揮したのがいつだったか覚えていらっしゃいますか?

 もちろん! 1983年です。その時のプログラムは、モーツァルトの交響曲41番「ジュピター」、「魔笛」序曲、そしてオーボエ協奏曲でした。

─ サンクトペテルブルグ・フィルへの思い入れや、このオーケストラならではの魅力をお話しいただけますか。

 愛情をベースにした結び付き、もしくは“縁”と言いましょうか……とにかく私はこのオーケストラが大好きです。レニングラード(サンクトペテルブルグ)に生まれ育って、この街で音楽活動ができることに幸せを感じています。

 ただ、私は様々なオーケストラを指揮していますが、どこかに多くの愛情を注いだり、こちらの方がうまいなどという比較をすることはありません。どのオーケストラに対しても、指揮台に立てば同じ気持ちで臨み、リハーサルを通してより良いコンサートになるよう全力を注ぎます。そしてその良し悪しの判断は聴衆の皆様にお任せします。

─ その審判が厳しいと感じる場所はありますか?

 一番怖い審判は、サンクトペテルブルグの聴衆です。それはテミルカーノフ氏も話していました。フィルハーモニー協会大ホールの聴衆の前では、すべてがさらけ出されます。ですからそこが一番緊張する場所ですね。

 でも実のところ、私にとって一番怖い聴衆はマエストロ・テミルカーノフ! サンクトペテルブルグでも、私が指揮するコンサートを客席で聞かれることがありますが、その時は何か試験を受けているみたいで緊張しますよ。

─アレクセーエフさんとサンクトペテルブルグ・フィルのコンビならではの魅力は何でしょうか?

 そうですね……、答えをはぐらかすわけではありませんが、何らかの魅力を感じていただくのは、やはり聴衆の皆さんだと思います。私たちは、とにかく好きな音楽を心を込めて届けることに徹したいと思います。

─ たとえば、今回の日本ツアーでも演奏されるチャイコフスキーの「悲愴」交響曲は、作曲者自身がフィルハーモニー協会大ホールで初演しています。そういった“空気”や“歴史”を背負った場所を本拠地としているからこそ紡ぎ出される何かがあるのではないでしょうか?

 そうですね。チャイコフスキーが交響曲を初演した当時、彼はその時代の“現代作曲家”でした、作品はすぐに受け入れられたわけではなく、それをチャイコフスキーはとても憂いていました。初演からの帰り道、グラズノフに不安を漏らした、とのエピソード聞いたことがあります。そのような雰囲気、チャイコフスキーの“置き土産”のような空気感は、ホールに確かに残っています。しかもあのホールでは、プロコフィエフやベルリオーズが残して行った何か、ショスタコーヴィチの息づかいのようなものを、今も感じることができます。そうした空気感を歴史や伝統というのなら、それはしっかりと残され、受け継がれています。

─ マエストロは、アルヴィド・ヤンソンス、マリス・ヤンソンスの両氏に師事されていますが、それぞれの師の思い出や特に影響を受けたことをお話しくださいますか。

 アルヴィド・ヤンソンスは、ドイツの指揮法を継承した偉大な巨匠でした。彼からは、ステージでの立ち振る舞い、リハーサルの進め方、オーケストラのメンバーへの接し方など、多くのことを学びました。それは、言葉ではなく、彼自身の姿を見て学び取ったのです。また息子であるマリス・ヤンソンスは、1982年にカラヤン指揮者コンクールを受けた際に、多くの時間を割いて指導してくれました。二人とも大切な恩師です。

─ 2018年のサンクトペテルブルグ・フィルの日本ツアーでは、テミルカーノフさんに代わって指揮をされ、すばらしい演奏を聴かせてくださいました。感触はいかがでしたか?

 私が一番感銘を受けたのは、プロコフィエフの「イワン雷帝」です。日本の合唱団の皆さんは、きちんとしたロシア語で歌われ、歌の内容がとても分かりやすかった。「イワン雷帝」は、決して容易ではない音楽ですが、合唱団も聴衆の皆さんもしっかりと曲を理解し、受け止めてくださった。それがとても嬉しかったですね。これまでに指揮した中でも忘れられないコンサートの一つとなりました。

─ マエストロは新日本フィルも数回指揮されていますが、日本の聴衆の印象はいかがですか?

 とても熱心に聞いてくださっていることは、指揮をしていて感じます。聴衆に音楽が届いたか否かは、終わってからではなく、演奏している間に感じるものです。それに演奏会というのは聴衆の皆さんと一体になって創り上げるものだと考えています。聴衆に背中を向けていても、演奏中は聴衆の皆さんとコンタクトをしている、そのような気持ちでいます。

─ 最後に、日本の聴衆へのメッセージを。

 日本の皆さんに、またお目にかかれることを心待ちしています! 日本のすべて……聴衆にも文化にも街の様子にも本当に惹かれます。再会を心から楽しみにしています!

取材・構成:ジャパン・アーツ 編集:柴田克彦
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