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キース・エマーソン来日インタビュー[吉松隆還暦コンサート・リハーサル]

 吉松隆還暦コンサート《鳥の響展》のリハーサルを、吉松さんと並んで見学していたキース・エマーソンさん。指揮者の藤岡幸夫さんと東京フィルハーモニー交響楽団が演奏する「タルカス」を、原作者(!)はどんな想いで聴いていたのだろうか? この曲を作曲した71年当時のことも振り返っていただきました。


――オーケストラのリハーサルをお聴きになって、どんな感想を抱かれましたか?
「とても勇敢なオーケストラだね。演奏のテンポがものすごくゆったりしていて…『タルカス』は、実は最初からオーケストラ用にしたいと思って書いた曲だったんだ。71年当時はフランク・ザッパもオーケストラとの曲を書いていたし、僕も将来オケでできればいいな、という夢はずっと抱いていたよ。吉松さんがオーケストラ・ヴァージョンの草稿を送ってきてくれたときは、この編曲が特別なものだという確信があった。実はそれまで、色々な作曲家がタルカスをオーケストラにしたいと言ってきてたんだよ」

――キースさんご自身もミュンヘン放送管弦楽団との共演でコンチェルト形式の「タルカス」を録音していますね。
「吉松さんの譜面のコピーを見て以来、自分でもやりたいと思うようになったんだ。94年頃にはシンセサイザーの多重録音でオーケストラ・ヴァージョンを作って自分のホームページに載せたことがあったけど、2007年にテリエ・ミケルセンという指揮者と出会ったことがきっかけになってね。「タルカス」以外の曲もオケ版に編曲したよ。76年にロンドンのオーケストラと共演したときは、オケのメンバーはロックミュージシャンにとても冷たい目を向けていたから、非常にフラストレイティングだった。親友のフランク・ザッパも同じ目にあっていたよ」

――今日のオーケストラは、コンマスの方もあなたの大ファンだということですが…。
「(顔を赤らめて)実はさっきから、とても緊張しているんだ。皆さんすごすぎて、汗かいちゃって…(笑)。リスペクトしてくれるミュージシャンと仕事をするのはとても光栄なことだ。オーケストラで自分の曲が演奏されることは夢だったけど、昔は絶対に現実にならないと思っていたからね」

<楽譜を見るエマーソンさん>

――昔といえば、キースさんがエマーソン・レイク・アンド・パーマーで初来日したのは1972年で、後楽園ホールには35,000人のファンが詰めかけました。当時のことは覚えていますか?
「覚えているよ!JALのチャーター便を一機借り切って、英国のジャーナリストも同行して日本に来たんだ。「ナショナル・ジオグラフィック」で読んだことしかない日本で、あんなに歓迎してもらえたのはカルチャーショックだった。今と違ってインターネットのない時代だったから。羽田に大勢のファンが集まっていて「今日はフランク・シナトラも到着するのかな?」なんて考えてたよ」

――たくさんの素晴らしいパフォーマンスを見せていただきました。
「でももう来年70歳だからね。ツアーはしんどくて出来ない(笑)。2010年にELP最後のライヴをロンドンのフェスティヴァルでやったんだけど、ハモンドにナイフを突き刺したりするのは、もうやりたくなかった。結局やったんだけど…。おかしかったのは、オルガンを倒すのが僕のトレードマークなんだけど、350パウンドのハモンドを運ぶのにスタッフは大変だから、キャスターをつけていたんだよ。本番で倒そうとしたら、車椅子みたいに転がっていっちゃった!」

<鍵盤があると思わず弾いてしまうらしい>

――(笑)世界一のキーボーディストには、どうしても派手なパフォーマンスを期待してしまうんでしょうね。
「でも、僕自身はそんなつもりはないし、もうそういうのはやらないだろうね。今は作曲に専念したいと思っています」

――先ほど「タルカス」の後に、吉松さんが25歳のときに作曲した「ドーリアン」がリハでは演奏されていましたが、この曲にはどういう感想を抱かれましたか?
「冒険心がすごくあって…爆発するような感じの曲だ。すべてを聴いてからでないと正しい感想は伝えられないけど、僕も吉松さんも、影響された音楽が似ているんじゃないかな?バーンスタインの「ウエストサイド物語」やコープランドの音楽には、南米のリズムにインスパイアされた痕跡があるけど、僕と吉松さんも国は違うけど、同じものを聴いて育ってきたたんだと思う」

――なるほど。20日の還暦コンサートでは「タルカス」を楽しみにしている聴衆も多いと思います。
「皆さん本当に楽しんで…とてもユニークなコンサートになると思う。まるで自分が演奏するみたいな気分だ。ちょっとナーバスになってるよ(笑)。僕の大きい方の息子は44歳になるんだけど、彼が子供の頃のことを思い出した。学芸会でピアノを弾くことになって、あまりに練習に興味をもたないから、ドラムマシーンつきの僕のシンセで練習させていたんだ。そうなると、カウントなしでは全部がおかしくなってしまう。本番のとき、彼が集中していないことがわかって、1,2,3,4…とカウントしたあとに、大声で「プレーイ!」と叫んでしまったんだよ(笑)。まさに同じ気分だね」

<ジャケットに使われているアルマジロのマスコットを持ってにっこり>

インタビュー:小田島久恵(音楽ライター)


幻のデビュー作から大河ドラマ「平清盛」まで作曲家:吉松隆60年の集大成
吉松 隆 還暦コンサート≪鳥の響展≫

2013年3月20日(水・祝) 15時開演 東京オペラシティ コンサートホール


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