2018/3/12

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前代未聞の壮大かつ重厚なプロジェクト[コンスタンチン・リフシッツ ピアノ・リサイタル]

前代未聞の壮大かつ重厚なプロジェクト

 この3月、J.S.バッハ関連として前代未聞とも言える壮大かつ重厚なプロジェクトが開幕する。その主役は21世紀の巨匠、コンスタンチン・リフシッツ、タイトルは「BACHは踊る」。

 まず3月21日、紀尾井ホールにおいて、’J.S.バッハ333回目の誕生日に聴く荘重な舞曲集 in 東京’として「イギリス組曲全6曲BWV806~811」を、同24日にはフィリアホールで“優美で気品溢れる組曲 in 青葉台”として「フランス組曲全6曲BWV812~817」を、そして翌25日には所沢市民文化センターミューズ・アークホールで’J.S.バッハ組曲の集大成 in 所沢’として「パルティータ」全6曲BWV825~830が演奏される。 「ダンス!ダンス!ダンス!」、少々おどけながらリフシッツは語り始めた。

 「《イギリス組曲》、《フランス組曲》、そして《パルティータ》は、すべて舞曲です。そもそも舞曲は宗教的な儀式や、人の折々の行事などに欠かせない民族の営みに直結した踊りでした。その独自のリズムや様式が発展し、多彩な作曲家が採り上げるようになったのです。今回演奏する組曲たちが作曲されたのは、J.S.バッハがケーテンの宮廷楽長時代からライプツィヒの音楽監督になった頃の時代で、いずれもアルマンド、クーラント、サラバンド、ジグの4つの舞曲を基本とするフランス・バロック形式で書かれています。それのみに留まらず、J.S.バッハはそれぞれにプレリュードやメヌエット、ガヴォット、ブーレなどの多彩な舞曲を付け加え、規模も大きく、遥かに多様性を加えた作品として完成させているのです。もちろんその頃には、踊るための舞曲から演奏のための舞曲に変化したものもありますが、それでもやはり、“ダンス!ダンス!ダンス”なのです。」

 さらに舞曲について、リフシッツには大きな夢がある。それは日本と西洋の神話からインスピレーションを得たのだという。

 「西洋と日本には、同じようなストーリーを持つ神話が存在します。まず西洋の方は、女神デメテルによる’ペルセポネーの略奪・帰還’です。デメテルはオリンポス12神の一柱で、ゼウスの姉にあたる豊穣神。もともとデメテルは“母なる大地”という意味です。そのデメテルの娘ペルセポネーが行方不明になり、それは冥界の神ハーデースにペルセポネーを嫁がせるために、ゼウスが仕組んだことだと知ります。デメテルはこれに激怒し、天界を捨て、地上に降りてしまったため、地上は暗澹たる荒廃した世界となり、大混乱します。困ったゼウスはハーデースを説得し、結局ペルセポネーをデメテルの元に帰します。地上を彷徨っていたデメテルは天上に戻り、再び世界を明るさと実りで満たしたというストーリーです。そしてデメテルを崇めるお祭りが始まりました。
 日本の方は、もうご存知ですよね。やはり太陽神である天照大御神による’天岩戸’のエピソードです。その時も世界は闇に包まれました。でも結局世界は光明を取り戻した。ここでも舞踊が重要な役割をしているのです」 人の感情、喜怒哀楽を表現する舞踊にこそ注目したいと、リフシッツは重ねる。
「実は、日本の舞踏とコラボレーションしてJ.S.バッハを演奏することが、私の夢なんです。日本の舞踏とは、能の舞のことですが、歌舞伎の舞でも良いのです。テンポや性格がいろいろありますが、私の演奏するJ.S.バッハを聴いて、日本の舞のことをイメージしていただけたらと思っています。具体的にはJ.S.バッハの時代の日本の舞です。まったく外国とコンタクトがなかった当時の日本で、ヨーロッパと同じような文化があったことは本当に不思議です。
 J.S.バッハが舞曲を書いていた頃に、日本でも舞の音楽がどんどん生まれていた。つまり音楽と舞、2つの組合せが生きる力を与えてくれるんだ、もらえるんだという意識が同じ時代に日本とヨーロッパであったんですね。ですから将来的に、J.S.バッハと日本の舞踊、つまり能や謡、歌舞伎などとコラボレーションすることも私の願いです。」

 かつてリフシッツが17歳で録音した「J.S.バッハ《ゴルトベルク変奏曲》」は世界的なセンセーションを巻き起こした。またリフシッツは同曲を2015年に再録音し、新しい境地を拓いたのは記憶に新しい。ベートーヴェン、シューベルト、ショパン、ムソルグスキーなどに重厚な解釈を見せるリフシッツであるが、取り分けJ.S.バッハには格別な対峙を示し、他にも「平均律クラヴィーア曲集」、「音楽の捧げ物」、「フーガの技法」などを録音するほど、歩み寄りを示している。

 今回の来日時では、「東京・春・祭」にも参加、3月30日と4月1日の両日、東京文化会館で、またそれ以前の3月17、18日には大阪いずみホールでJ.S.バッハ「ピアノ協奏曲」全7曲他を弾き振りする。
まさに今年の音楽界最大の話題のひとつになることは間違いない。

真嶋雄大 (音楽評論家)

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‘とてつもない’天才と旅するバッハの音楽世界 <BACHは踊る>
コンスタンチン・リフシッツ ピアノ・リサイタル
2018年3月21日(水・祝) 13:00開演 紀尾井ホール
公演詳細はこちらから

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