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ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 新ホールオープニング公演レポート

 2017年4月28日、ドレスデン・フィル、そしてドレスデン市民が長年待ち望んだ日がやって来た。旧市街のアルトマルクト広場に面したクルトゥーアパラスト(文化宮殿)が4年間に及ぶ改修工事を経て、リニューアル・オープンを迎えたのである。 クルトゥーアパラストは1969年にクルト・マズア指揮ドレスデン・フィルによってオープンして以来、ドレスデン・フィルの本拠地として知られてきた。しかし、音響効果はお世辞にも良いとは言い難く、設備の老朽化もあって、今回のリニューアルが決定。文化財に指定されている建物の外観や東独時代の面影を残すホワイエなどは残したまま、ヴィンヤード形式のモダンなホールに造り変えるという独自の手法が取られた。 28日の祝典行事ではクラシック音楽に造形の深いヴォルフガング・ショイブレ独財務相が記念スピーチを行うなど、その模様はドイツ全土に生中継された。筆者は幸運にも、翌29日に行われた最初の公のコンサートを聴くことができた。典型的なヴィンヤード形式の大ホールは1785の座席数を持ち、設計に際して札幌のキタラや東京のサントリーホールなど日本の優れたホールも参考にしたという。55の音栓を持つパイプオルガンは、費用の大部分が市民の募金で賄われたというから、教会音楽の長い伝統を持つドレスデンならではと言える(こちらは9月にお披露目の予定)。
 首席指揮者のミヒャエル・ザンデルリンク指揮ドレスデン・フィルによるこの夜の公演は、ショスタコーヴィチの《祝典序曲》で幕を明けた。念願の新しい本拠地をついに手にした喜びを全身で表現するかのように、彼らは溌剌と生気あふれる演奏を展開。続く、管弦楽伴奏によるシューベルトの3つの歌曲では、バリトンのマティアス・ゲルネが憂いを帯びつつもまろやかな声でホールを包み込む。ここではドレスデン・フィルの弦と管の伴奏が、室内楽的な親密な音楽を生み出していた。
 さて、後半の演目は、69年のオープン時と同じく、ベートーヴェンの交響曲第9番。ドイツで「第9」が上演されるのは、ごく特別な機会に限られる(今年1月のハンブルクのエルプフィルハーモニーのお披露目公演でも「第9」のフィナーレが最後に演奏された)。ザンデルリンクはコントラバス6本のやや小さめの編成で、彼のベートーヴェン演奏の常であるように、第1と第2ヴァイオリンを左右に分ける古いスタイルの配置を採用。ノンヴィブラート奏法も用いながら、全体的にきりりと引き締まった演奏を繰り広げてゆく。それでも、斬新さばかりが際立つことがないのは、ドレスデン・フィル伝統のやや暗みがかった弦楽器の響きによるところが大きい。特に第3楽章では弦に加えて、ホルンや木管のアンサンブルが絶妙に溶け合い、変奏が進むにつれ陶然となった。低弦から始まるフィナーレの歓喜の主題が重なってゆくところでのヒューマンな音のふくらみ!最後はMDR合唱団とドレスデン・フィル合唱団、さらに児童合唱団も加わっての大団円となったのである。
 前半はやや控えめな反応に感じられた地元のお客さんだったが、「第9」が終わると、文字通りの熱狂。1989年に市民が「平和革命」を実現させたドレスデンの新たな節目に鳴り響くベートーヴェンは、格別の感慨に満ちていた。 ベートーヴェンとショスタコーヴィチの交響曲ツィクルスという一大プロジェクトを進行中のザンデルリンクとドレスデン・フィル。新たな拠点を得た彼らがこれからどのように響きを熟成させていくのか、実に楽しみである。

中村真人(ジャーナリスト・ベルリン在住)

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伝統と革新!新時代の名コンビ 古き良き「独逸の音」に新鮮な閃きを加える俊英
ミヒャエル・ザンデルリンク首席指揮者 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
2017年7月2日(日) 15:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール
2017年7月4日(火) 19:00開演 東京芸術劇場 コンサートホール
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