2016/10/5

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新スター誕生!ユリア・マトーチュキナに聞く [マリインスキー・オペラ]

いよいよ開幕目前のマリインスキー・オペラ。「ドン・カルロ」でエボリ公女役、10月16日の「エフゲニー・オネーギン」でオルガ役のユリア・マトーチュキナのインタビューです。

今回が初来日ですか?
いいえ2回目です。2011年『影のない女』で、小さな役でしたが出演しました。洋服ダンスと洗濯機から、とっても綺麗なブルーのドレスを着た女性たちが出てくるシーンがあるんですけど、私がそのうちの一人でした。

その時と今回では、環境も大きく変わりましたね?
はい。前回は、デビュー間もない頃でした。その後、さまざまな公演に参加し、コンクールで賞をいただきました。その中でも、いちばん大きな結果が、チャイコフスキー・コンクールの優勝でした。これまでもたくさんの役を歌ってきましたが、一番大きく変わったのは今年ですね。初めてカルメンを演じましたし、デリラ、それからエボリ公女も歌いました。『ドンキ・ショット』のドルネシア姫でフルラネットとも共演できたことも重要なことでした。彼は、宇宙みたいな、魔法のような、本当に素晴らしい人です。これまでにいろんなフェスティバルにも参加してきました。マエストロ・ゲルギエフのミッケリ音楽祭、エディンバラ国際フェスティバル、バーデン・バーデン音楽祭などです。それからもう一つ、今年起きた大きな出来事といえば、アメリカのニューヨークに初めて行ったことです。カーネギーホールで歌ったんです。私にとってとても思い出深く、とても緊張したイベントでした。

ご自分のどういうところを日本のお客さまに観てもらいたいですか?
まずは演じる役のキャラクターをきちんと伝えたいです。エボリ公女は私にとって最近取り組んでいる役なので、この1年はずっとこの役のことを考えています。テクニック的にも、とても難しいです。さらに物語の中で重要な意味を担っていますから!物語の鍵を握っている役ですから、責任重大です。

エボリ公女について、もっと聞かせて下さい。
やはり、女性としての感情を強く感じます。彼女は周囲で何が起きているかをしっかり理解しています。何のために自分がそこにいるのか、自分が何をすべきか。でも最終的に神の前で、そして自分自身に対して、後悔するのです。これが私の運命、私の中にあるものすべては私への罰、と言います。
彼女が繰り広げた陰謀は、彼女の人生のすべてです。しかし、最後にはその陰謀からも離れなければならなくなった。’愛’ のためという、善の感情が最終的には勝つのです。そこが、私自身とても共感できる部分です。
この役は、メゾ・ソプラノとってはかなり高い声域です。また、他の登場人物と違って、凝縮されたアリアを歌います。彼女がしっかりと物語の中で句読点を打っていく、そんな感じです。オペラ全体は一つの流れのように流れていく中で、彼女のアリアは、完結型の、はっきりとしたアリアです。彼女が登場すると、オーケストラの演奏も変わり、警戒するような緊迫した音になります。そんな風に彼女の本質を表現しているんだと思います。

『エフゲーニ・オネーギン』のオルガはどういう女性だと思って歌っていますか?
いたずら好きな女性(笑)、陽気な女性です。私にとても似ています。オネーギンは彼女のことを、バカだの、顔が赤いだの、言いますけど、彼女は日々楽しく暮らしている女性なんだと思います。
私も、いろいろ大変なことはあるけれど、いつも笑っているように心がけています。自然界も、雨が降った後は必ず晴れるのと同じように。でも、人生について考える必要がないというわけではありません。でも私は、人生を考える時はメジャー(長調)的に考えるようにしています(笑)そんなに楽観的じゃダメだ、もっと事実を正面から見ないと、と言う人もいますが、私は逆だと思います。楽観的に見ることは必要だし、そうしていいと思うんです。

そういう前向きさが、この厳しい劇場で生き抜いてきたり、チャイコフスキーコンクールでの優勝につながっているですね。
誰にでも、自分の習慣ってあると思うんです。例えば、子供の頃、まだ解けない課題があってそれを明日先生に提出しないといけないという時、朝までかかって課題をやり続ける人もいるでしょう。でも私はいつも「よし、とりあえず置いておこう!明日になったらなんとかなる、トイレで誰かのを写させてもらおう!」と思うんです(大爆笑)。

オプティミストだっておっしゃいましたが、ある意味すごく知恵があるなと思います。自分を追い詰めないことは、自分を守る上で大事なのではないかなと思います。だから実はすごく賢いんじゃないでしょうか。
アハハハ、私はそこまで賢くはないですけど、必死でそうなろうとがんばっています(笑)。

歌の道に進む前までは、ヴァイオリンや指揮を学んでいたということですが・・・。
ええ、それが今とても役立っています。役を覚えるのも早いですし、時には飛行機で移動中に音だけ聞いて覚えることもあります。とてもいい経験として役に立っています。

特にマリインスキー劇場で仕事をしていると、いろいろな役を歌わなければいけない、それも早く覚えなくちゃいけないですよね。
はい。『カルメン』は3週間で覚えないといけませんでした。ある日の夜中に、マエストロ・ゲルギエフから電話があったんです。「ユーリャ、調子はどうだい?」と聞くので、私は震える声で「はい、元気です。」と答えるしかありませんでした。すると「そうか。まだ3週間もあるしな。時間はたっぷりある。」とおっしゃるのです。結局、ちゃんと覚えて、歌うことができましたけどね!(笑)

『エフゲーニ・オネーギン』はプーシキンの作品です。言葉もすごく大切ですよね。プーシキンについてどう思いますか?
私はプーシキンが大好きです。彼の作品は悲劇的ですが、ユーモアがある。中でも『エフゲーニ・オネーギン』は傑作です。オルガは私が音楽院で学んでいた頃、人生で初めて歌った役です。そのころ私の住むカレリアのペトロザヴォーツクという村に、有名なガリーナ・ゴルチャコーワがやってきました。地元の交響楽団との共演で音楽院の学生も歌い、コンサート形式で『エフゲーニ・オネーギン』を上演したのです。私は当時、音楽院の2年生で、5年生にも4年生にもオルガを歌える学生がいたのですが、「あなたも覚えなさい」と課題を与えられました。きっと選ばれないだろうけど、万一に備えて、ということで。オーディションが行われ、ゴルチャコーワが次々に歌を聴いていくうちに、隅の方にいた私も歌いました。すると彼女は「この子と歌うわ」と言ったのです。というわけで、私の初舞台はオルガ役で、タチヤーナはゴルチャコーワでした!

『エフゲニー・オネーギン』の演出について、どう感じていらっしゃいますか?
この演出にはプロダクション制作の時から参加し、プレミエ公演でも歌いました。ステパニュク監督の演出は大好きです。彼の視野はとても広く、と同時にとても細かいところも描いています。それぞれの登場人物がそれぞれのシーンで何かしている、というだけでなく、その行動には前後のつながりがちゃんとあり、描かれているのです。それが主役だろうと脇役だろうと関係ありません。それぞれに、それぞれの人生があるのです。ステパニュク監督は、演出をする時に、自分自身がその役になって見せてくれます。あの巨体で舞台を走りまわるのです。ここでジャンプして、あそこで回って、というふうに(笑)。

自分でやってみせるんですね?
そのシーンの絵作りを見せるというだけでなく、その作品の中に生きている感じですね。それぞれの役に入り込んで、今この瞬間、この舞台を誰が歩いているかを考えさせる、そういう演出家です。芸術の深みに達するには、一生かかると思いますが、等身大の私のオルガをご覧いただけると思います。

最後に日本のお客さんにメッセージを
マリインスキー・オペラ日本公演でみなさんにお会いできることを心から楽しみにしています。きっとみなさんにたくさんの喜びと冒険と、忘れられない感動をお届けできると思います。ぜひ見に来てくださいね。愛を込めて・・・。
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帝王ゲルギエフ&伝説の劇場が威信をかける2演目
マリインスキー・オペラ 来日公演2016


「ドン・カルロ」
10月10日(月・祝) 14:00/10月12日(水) 18:00
「エフゲニー・オネーギン」
10月15日(土) 12:00/10月16日(日) 14:00
公演の詳細はこちらから

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