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"一期一会"のいい舞台~ブルガリア国立歌劇場のトゥーランドット 前半

著述家・プロデューサーの湯山玲子氏による、トゥーランドット公演レポートぜひご覧ください!
ブルガリアの首都であるソフィアは、都市と言うよりも小さい街のようだ。中心地から2キロ四方にそのメインは集約されていて、全て自転車で回れるし、歩くこともできる。そして、ブルガリア国立歌劇場が位置するのは、街の東側。中央の重厚な官庁の建物群の一角ではなく、ケバブカフェや雑貨屋があるような庶民的なエリア。ウィーンのフォルクスオパーに近い立地である。大型ビルに、ギリシャのイオニア式の門柱が連なるエントランスが付けられているのは、その建物がかつては政府官公庁の建物だったためだ。しかし、内部は2階席3階席が縦に連なる典型的なオペラ建築。パリ・オペラ座では、シャガールの手になる天井画が有名だが、こちらの劇場では青空を描いたシンプルなもの。キャパは1200人ぐらいでこじんまりしているが、舞台はホリゾントの裏にもうひとつ舞台を入れたぐらいの奥行きがあり、舞台の真横に貴賓席のようなバルコニーがあるのも特徴的。

そして、「すぐ近くに音が(在る)感じ」である海外のオペラ劇場独特の音響は、もちろんこちらでも健在。日本で体験できる音楽ホールでのオペラ公演とは本当に印象が違うこの音の響きをどうやって説明したらいいだろうか。音が大きく豊かに丸く響き、歌が際立って聞こえてくる。現代のホールのように、音響の科学的な計算があったわけではないが、そういった各都市の空間で歴史とともに鍛えられて来たのがクラシックの生音なのだ。たとえば、私たちが聴くラジオは、特別な音処理をしているので「ラジオ的」な響きがあって、それが70年代のロックを聴く時に素晴らしくカッコよく聞こえるのだが、それに近いかも。ちなみに、声が前に来る感じは、蓄音機のそれにも似ている。

客層などを見ると、社交界的な側面よりも、地元のファンにしっかりと支えられているような骨太さが感じられる。幕間に外に出ると、道をはさんだ向かい側に小さいコーヒースタンドがあり、そこにドレスアップしたご婦人がアペロールのソーダ割り(ヨーロッパの人々は本当にこの飲料が好きだ)を飲んでいる光景は、なかなか趣がある。かつての歌舞伎座では、幕間に外に出て横にある立ち食いソバを食べるのがツウ、とされていたが、まさにそれを髣髴。『カルメン』で隣に座った20代の男の子は、ほとんど全てのここでのオペラをチェックしているといい、彼の「歌手を贔屓にする」感覚は、イタリアを初めとした地域密着型の劇場ならではものであった。で、そのオペラ男子が「この劇場の十八番ですよ!!!」と力説したのが、2日目の『トゥーランドットTurandot』だ。「西欧が思い描くいにしえの中国」を舞台にしたプッチーニ最後の傑作オペラに関しての、ブルガリア国立歌劇場の演出、舞台美術は、前の『カルメン』とは打って変わって、オーソドックスなしつらえ。とはいえ、その衣装や舞台美術のセンスは、トゥーランドット姫が綿帽子のようなかぶり物を被っていたり、勇者カラフが色鮮やかなローブを纏う、というような、シルクの国中国という、女性的なファンタジー方向ではなく、青竜刀や青銅器文明を感じさせる重厚なもの。トゥーランドット姫の沈金の冠やカラフや兵士たちの衣装にあしらわれる鈍色の装束は、古くから銅や金を用い、素晴らしい宝飾品や武器をつくり出してきたブルガリアの文化と一気通貫しており、西洋と東洋という分け方ではない、ユーラシア大陸としての共通項が感じられたのだ。

後半へ続く・・・

<湯山玲子>
日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。自らが寿司を握るユニット「美人寿司」、クラシックを爆音で聴く「爆音クラシック(通称・爆クラ)」を主宰するなど多彩に活動。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッションなど、カルチャー界全般を牽引する。著書に『クラブカルチャー』(毎日新聞社)、『四十路越え!』(角川文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)、『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著。幻冬舎)、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(KADOKAWA)などがある。
湯山玲子公式サイト:http://yuyamareiko.blogspot.com/

<ブルガリア国立歌劇場>
10月5日(金) 18:30 「カルメン」
10月6日(土) 15:00 「カルメン」
10月8日(月・祝) 15:00 「トゥーランドット」
公演詳細はこちらから
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湯山玲子氏が観たブルガリア国立歌劇場~カルメン 後半

『カルメンCarmen』はビゼー、『トゥーランドットTorandot』はプッチーニという稀代のメロディ&和声メーカーの響きは、まさにこの歌劇場によって、再認識させられることは間違いない。感情を使わず、メロディーに声自身を同化していくがごとくのその音響の豊かさに心を掴まれた。 『カルメンCarmen』に関してのもうひとつの「ブルガリア的」は、思い切った演出意図にて、群衆に仮面をつけさせているところ。演出のモチーフとなったギリシャ悲劇のコロスを思い起こさせる「顔のない群衆」表現だが、実はギリシャとブルガリアとは国境を挟んだ隣国であり、ブルガリア文化のDNAには、ギリシャ文化というものがしっかりと根を張っていることを忘れてはならない。ちなみに、ホメロスの『オデッセイア』にはブルガリアの先住民族トラキア人の記述がある。そして、21世紀の歴史的大発見と言われる「トラキア王の黄金の仮面」は、ブルガリア観光の最大の目玉だったりもする。もうひとつ、仮面に関しては、以下のような「深読み」もできる。なぜなら、トルコに500年も支配され、その後、ソ連の衛星国家になるなど、いつも外からの圧政者に「仮面」をつけて生き延びてきた存在が、何を隠そうブルガリア国民だったのだから。 舞台中央の真紅の円形ステージは、カルメン、ドン・ホセ、ミカエラだけがそこに立入ることを許されている。白いマスクに黒服の「顔のない群衆」は、通常の演出では、それぞれの装いと表情を持ち、ジプシーの猥雑感を表現するのにひと役買うわけだが、今回の演出はそれとは真逆。お約束のスペイン舞踊は、まるでラスベガスのショー並のグリッターでゴージャスな衣装でのラインダンスに集約されていて、これまた猥雑から非常に距離をとったクールな味わいで、ギリシャ神話のコロスのような白マスク集団との対比は、フェリーニを思い出させるミックスアップだ。 もはや「新しいことは何も無い」という表現における不都合な真実の前に重要なのは、実際の舞台から伝わる『カルメンCarmen』の本質は何か?ということだ。結果、このブルガリア国立歌劇場によるオペラ『カルメンCarmen』は、単なる恋愛好きの奔放女の顛末だけでは決してない、現代にも通じる「女の自由とそれを阻む文化」や、「好きになった人は、どんなに努力しても自分を好きになってくれるとは限らない」という恋愛の不平等性―この不条理に耐えられなくて、今時の若者は恋愛離れに走っているらしい、という大問題にまで肉薄していくのである。
 それにしても、このオペラ『カルメン』の楽曲の魅力には舌を巻く。エキゾチックな節回しを取り入れながら、人が持つメロディーセンサーをグラグラ揺さぶってくる名アリアの数々。あの有名なタンタカタカタカ、タンタカタカタカ、第1幕の前奏曲<闘牛士>の能天気さと明るさは、嫉妬とプライド、恋の罪という実は相当暗い男と女の物語の非凡なプロローグとして、あまりにも効果的。こういった音楽の「置き方」は、現代ではクエンティン・タランティーノ、ペドロ・アルモドバル等の、耳の良い映画監督が得意とする手法であり、そういった現代的なセンスを先取りしていたビゼーの表現力に今更ながら、驚いてしまう。ちなみに、今回舞台を観ながら、頭をよぎったことがある。ビゼー、現代に生まれたとしても、世界のヒットチューンメイカーになっただろうことは間違いがない。だれに匹敵するのか、というと、これ、ポール・マッカートニーというセンが浮かんできた。第三幕の間奏曲なんて「ブラックバード」のリリシズムだし、試しに、カルメンが歌う<ハバネラ>の声をポールのそれに変換させて想像して見てくださいな。クラシック界のメロディメイカーは、それこそ、モーツァルトから、チャイコフスキーなどたくさんいるが、ポップスの持つ「カッコよさやキャッチーさ」と肩を並べ得る才人はそういない。初心者向き?!  冗談じゃない。クリエイティヴ、という観点からもっと評価されていい作品と作曲家である。

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<湯山玲子>
日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。自らが寿司を握るユニット「美人寿司」、クラシックを爆音で聴く「爆音クラシック(通称・爆クラ)」を主宰するなど多彩に活動。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッションなど、カルチャー界全般を牽引する。著書に『クラブカルチャー』(毎日新聞社)、『四十路越え!』(角川文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)、『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著。幻冬舎)、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(KADOKAWA)などがある。
湯山玲子公式サイト:http://yuyamareiko.blogspot.com/

ブルガリア国立歌劇場
10月5日(金) 18:30 「カルメン」
10月6日(土) 15:00 「カルメン」
10月8日(月・祝) 15:00 「トゥーランドット」
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【速報】2019年エイフマン・バレエ 来日決定

世界に衝撃をあたえ続ける
エイフマン・バレエ

来日期間:2019年7月18日(木)~7月21日(日) 会場:東京文化会館
芸術監督・振付:ボリス・エイフマン
出演:エイフマン・バレエ from サンクトペテルブルグ

待望の来日は、今秋10月に詳細発表予定!
公演詳細チラシが完成しましたらお送りいたしますので、ご希望の方は以下チラシ請求フォームからお申し込みください。
チラシ請求フォーム

「アンナ・カレーニナ」


「ロダン」

動画:エイフマン・バレエ オフィシャル・チャンネルより

<東京以外の公演>
・7月13日(土)びわ湖ホール「アンナ・カレーニナ」
 発売日などの詳細は、決定次第びわ湖ホールから発表予定です。

※個人情報の取り扱いについてはこちらをご確認ください。
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イワン雷帝のチラシが完成![サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団]

11月に来日するユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団。11月13日公演のプログラム「イワン雷帝」のチラシが完成いたしました!
マエストロ テミルカーノフ80歳記念公演、ロシア最高峰の巨匠、最古のオーケストラが描き出す伝説の暴君「イワン雷帝」の半生、ぜひぜひお見逃し無く!!
▼画像をクリックすると瓦版をPDFでご覧頂けます▼


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テミルカーノフ80歳記念公演 ロシア最高峰の巨匠とオーケストラで聴く 薫り高き響き
ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
2018年11月12日(月) 19:00開演 サントリーホール
2018年11月13日(火) 19:00開演 サントリーホール
公演詳細はこちらから
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舘野泉 世界初!左手のオーディションの審査委員長をつとめます。

金沢発で、画期的な取り組みがはじまります!
ピアニストを目指していたが、右手の病気や障がいなどで両手での演奏が困難になった人を対象に、世界に呼びかけ開かれた未来を創るお手伝いをする、「いしかわ・金沢 左手のピアニストの為のオーディション」の開催が決定!そして、審査委員長をピアニスト 舘野泉がつとめます。審査委員長 舘野泉のコメント
14年前、私が左手のピアニストとしてステージに復帰した頃のこと。テレヴィのニュース番組で故筑紫哲也さんと対談をした時に、筑紫さんが「左手のピアノというのは独自の楽器なのですね」とおっしゃった。今にして思えば、これほど簡明に事の本質を突いた発言をなさった方はほかにいない。

 40年に亘って両手のピアニストとして活躍し、その後左手のピアニストとしては14年。四千回に及ぶコンサートをしてきた。内外の主要オーケストラと恊演をし、他のあらゆる楽器とも共演してきた現在、誇りをもって云えるのは、左手のピアノはまったく独立した表現世界を持つジャンルであること。作曲家たちも自発的に新作を書いてくれる。障害者の不自由な演奏なんかでは決してない。

 金沢で左手のピアニストへの門が開かれたことに心よりの感謝と喜びを申しあげたい。

舘野 泉(ピアニスト)

▼画像をクリックでオーディション詳細チラシ、募集要項(7ヶ国語)をご覧いただけます▼

オーディション詳細はいしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭のHPでも公開しております。
https://www.gargan.jp/lefthand-audition/

いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭公式Twitterはこちらから

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バースデー・コンサート 4つの委嘱作品・初演 ~彼のための音楽を彼が弾く~
舘野泉 ピアノ・リサイタル
2018年11月9日(金) 19:00開演 東京文化会館 小ホール
公演詳細はこちらから