| ヤンネ舘野&舘野泉デュオ・リサイタルに寄せて
わたしは幼い頃から、いつか日本に住みたいという夢を抱いていました。4 年前、ヘルシンキから京都へ移り住み、この夢は実現しました。その後、日本での演奏活動に力を注ぎ、懸命に取り組んできました。わたしの日本への思いは、遊びに来ていた子供の頃と、音楽家として暮らすようになった今とでは全く違います。青年時代は外国で過ごしたので、日本語の習得にはかなり苦労をしました。しかし今は、日本が一番くつろぐ場所です。父の母国で暮らし、演奏する毎日に感謝しています。
ここ数年、父のコンサートを聴きに、多くの会場を訪れました。父の演奏には、聴く度に心奪われます。上野の東京文化会館は、父にとってとりわけ重要な場所です。魅力的な雰囲気に包まれたホールで、父と共にコンサートを開催できることは、私にとって大変な幸運であり、音楽家として生きていく上でも大きな意味を持つことであると感じています。
80 年前の作品から現代の作品に至る今回のプログラムは、控えめに言っても大胆な冒険です。
2 年前の2009 年に生誕100 年を迎えた秋田生まれの作曲家、石田一郎さんは、父の親しい友人でした。彼の音楽には日本、特に東北への深い愛情を感じます。しかし同時に、フランスやロシアの音楽への好奇心と遥かなる場所への憧れも感じるのです。現在、私は毎月三分の一以上を東北、山形で演奏しており、また、フランスの音楽は特に好きな音楽の一つなので、石田さんの音楽世界は、わたしの中でとても心地よく響いています。
海岸の景色が美しい京都府丹後地方出身の作曲家、平野一郎さんは、私が最も心惹かれる若手作曲家の一人です。今年の1 月に、彼のモノオペラ「邪宗門」の公演に参加した後、その音楽の素晴らしさが心をはなれず、是非とも新しい曲を書いていただきたいという思いが募り、この度作曲をお願いしました。
谷川賢作さんのピアノは、いつも私のインスピレーションの源です。今回の作品に隠されている幾つもの“宝物”を、二人でみつけてゆく時間は、この上ない喜びです。
最後にもうひとつ。わたしたちはコルンゴルトの組曲を演奏します。たくさんの優れた作品によくあることですが、この組曲も特別な運命の下に産まれました。第一次世界大戦で片腕となったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインのために、世紀の変わり目の頃に活躍した作曲家たちによって、多くの作品がつくられました。この作品もその中の大作のひとつです。父はこの組曲を「室内楽の歴史におけるゴジラ」と呼んでいます。新しいメンバーによって、この組曲を再び演奏する機会を得られ、挑戦できることにわくわくし、また身の引き締まる思いでいます。
今回のコンサートは、私の東京での本格的なデビューとなります。この素晴らしい音楽への旅を皆様に楽しんでいただければ幸せです。
ヤンネ舘野
ヤンネ 舘野 Janne Tateno (ヴァイオリン / Violin)
1975年フィンランド・ヘルシンキ生まれ。ヘルシンキ音楽院でオルガ・パルハメンコ、シカゴ芸術音楽学院にて森悠子に師事。98-07年オウルンサロ音楽祭(フィンランド)、08-10年セヴラック音楽祭(フランス)に出演。05年丹波の森国際音楽祭シューベルティアーデたんばのシンボルアーティストとして招聘されて以来毎年出演。現在ヘルシンキを拠点とする、ラ・テンペスタ室内管弦楽団のコンサートマスター、山形交響楽団第2ヴァイオリン首席奏者、森悠子主宰の長岡京室内アンサンブル、Tangueros Polares 、Tangueros Articosでの出演、また東北、東京、関西を中心に日本各地でのソロ、室内楽演奏など、フィンランドと日本、二つの祖国において幅広い活動を展開。07年オウルンサロ音楽祭(音楽監督・舘野泉)の日本版をプロデュース。11年2月東京エラート室内管弦楽団とモーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第3番」を共演。豊穣な音色、流麗な音楽運び、優美で気品に満ちたモーツァルト。音色と歌心と技巧の三拍子揃った快演と音楽誌上にて高く評価される。
舘野 泉 Izumi Tateno (ピアノ / Piano)
1936年東京生まれ。60年東京芸術大学首席卒業。64年よりヘルシンキ在住。68年、メシアンコンクール第2位。同年より、フィンランド国立音楽院シベリウス・アカデミーの教授を務める。81年よりフィンランド政府の終身芸術家給与を得て、90年以降は演奏活動に専念。演奏会は世界各地で3500回以上、リリースされたCD・LPは130枚にのぼる。人間味溢れ、豊かな叙情性をたたえる演奏は、世界中の幅広い層の聴衆から熱い支持を得ている。この純度の高い透明なる抒情を紡ぎだす孤高の鍵盤詩人は、02年脳溢血(脳出血)により右半身不随となるが、04年「左手のピアニスト」として復帰。その左手のために間宮芳生、ノルドグレン、林光、末吉保雄、吉松隆、谷川賢作等第一線で活躍する作曲家より作品が献呈される。命の水脈をたどるように取り組んだ作品は、静かに燃える愛情に裏打ちされ、聴く人の心に忘れがたい刻印を残す。06年「シベリウス・メダル」授与。同年、左手の作品の充実を図るため「舘野泉左手の文庫(募金)」を設立。08年、長年の音楽活動の顕著な功績に対し、旭日小綬章受章、および文化庁長官表彰受賞。 2010年演奏生活50周年記念公演を各地で行う。あわせてCD「記憶樹」(エイベックス・クラシックス)、「EMIレコーディングス・コンプリートBOX」がリリースされ、著書『ピアニストの時間』(みすず書房)が刊行された。 楽譜『左手のピアノシリーズ』(音楽之友社)を出版。最新CD「祈り・・・子守歌」は『レコード芸術』の特選盤に選ばれる。南相馬市民文化会館(福島県)名誉館長、日本シベリウス協会会長、日本セヴラック協会顧問、サン=フェリクス=ロウラゲ(ラングドック)名誉市民。 舘野泉公式HP http://www.izumi-tateno.com |