| つねに新しいページをめくり続ける陽子さん!
音楽評論家 萩谷 由喜子
糊のきいた白の綿シャツに広幅のサスペンダーつき黒パンツ。チェロを片手に凛と立つ愛らしい少女のジャケット写真に惹かれて、そのCDをプレイヤーにかけた者はみな、みずみずしい躍動感と歌にあふれた楽の調べに息を飲んだ。
クラシック・ヒット・チャート第一位にもランクされたあの衝撃的なデビューCDから早くも21年。その後まもなく、陽子さんはフィンランドのシベリウス・アカデミーに留学し、気候、言葉、生活習慣すべて不慣れな環境に身を置きながらアルト・ノラス先生のもとで研鑽を積み、3年後、みごと首席卒業を果たす。
そして帰国後のめざましい活躍。多くのメジャー・オーケストラと共演し、着々とレパートリーを開拓して、テーマ性に貫かれた新譜を次々と発表していく。たとえば、3人の作曲家の無伴奏作品を異なる名器で弾き分けた『コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ』。
アコーディオンと共演した『展覧会の絵』、チェリストのバイブル『バッハ:無伴奏組曲全曲』、そして生誕100年のバーバーにエルガーを組み合わせた最新の協奏曲アルバム。陽子さんはつねに新しいページをめくり続けてきた。
今回のリサイタルでは、前半にブラームスの1番のソナタとブリテンの無伴奏組曲が選ばれた。ブラームスはすでに録音もある彼女の十八番のひとつ。ブリテンの組曲は20世紀最大のチェリスト、ロストロポーヴィチのために書かれた難曲だが、90年にロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクールで特別賞に輝き、巨匠から絶賛された陽子さんにとっても縁の深い曲だ。
こうして前半に、19世紀の傑作二重奏と20世紀の無伴奏作品を対置させたのち、後半は一転して、生誕200年のショパンの世界に聴き手を誘う。この「ピアノの詩人」がピアノの次に愛した楽器はチェロだったのだ。晩年の暗い情熱の秘められたショパン室内楽の最大傑作と、若き日の晴朗な小品。ここにも彼女の選曲センスがうかがえて、リサイタルへの期待はいよいよ膨らむ。
長谷川 陽子 Yoko Hasegawa (チェロ/Cello)
井上頼豊氏に師事。第54回日本音楽コンクールで第2位。桐朋音楽大学に入学後、1989年より文化庁派遣在外研修員と
して、フィンランドのシベリウス・アカデミーに留学、アルト・ノラス氏に師事(1992年首席で卒業後帰国)。1990年、ロストロポーヴィチ
国際チェロ・コンクール特別賞受賞。
これまでに日本の主要オーケストラと共演。高い技量と豊かな音楽性には定評があり、日本を代表するチェロ奏者の一人で
ある。CDはビクターエンタテインメントより多数発売しており、下野竜也指揮/チェコ・ナショナル響とバーバー、エルガーの協奏曲を
本年1月にリリース。第3回アリオン賞審査員奨励賞、村松賞、霧島国際音楽祭賞、新日鉄フレッシュアーティスト賞 他、受賞多数。
オフィシャル・ホームページ http://yoko-hasegawa.com/
野平一郎 Ichiro Nodaira (ピアノ / Piano)
東京芸術大学、同大学院修士課程を修了後、パリ国立高等音楽院に学ぶ。ピアニストとして内外の主要オーケストラにソリストとして出演する一方、名手と数多く共演し、室内楽奏者としても活躍。
作曲家としては委嘱を含む多くの作品があり、近年ではオペラ「マドルガーダ」、歌曲集「悲歌集」、チェロのための「謎」、「トリプティーク」、チェロと管弦楽のための「響きの連鎖」などが世界初演され、いずれも絶賛を博している。中島健蔵音楽賞、尾高賞、芸術選奨文部大臣新人賞、京都音楽賞実践部門賞、サントリー音楽賞、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2005年より静岡音楽館AOI芸術監督。
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