ハンガリー音楽会の”顔”となったコチシュ
ハンガリーで今、「この国を代表する音楽家は誰ですか?」と質問すれば、おそらく多くの人が「ゾルターン・コチシュ」と答えるだろう。
日本の音楽ファンの中には、コチシュがずば抜けた音楽家であると認めながらも、そこまでとは思っていない方も多いに違いない。実は母国ハンガリーでもコチシュに対するこのような評価はここ数年のことである。
今やハンガリーではコチシュの名前や顔を目にしない日はほとんどないといっても過言ではないが、ほんの4,5年前までは状況は少し異なっていた。
日本では「二足の草鞋」のたとえはネガティヴな意味合いで用いられることがあるが、ハンガリーでも若い頃からのピアニストとしての水際立った活動の印象がすっかり定着していたため、「なにも指揮台に立たなくても」とか、
「ピアノを弾く姿をもっと見たい」という声が高かったのは事実だ。
今から20年近く前にブダペスト祝祭管弦楽団の指揮者としても定期的に活動するようになってからも、もともと指揮者であるイヴァーン・フィッシャーと二枚看板だったこともあり,指揮者としてのコチシュは”サブ”的な扱いだった。
1997年にこの新しいオーケストラが軌道に乗ったことを見届け、彼はハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団へ移った。ヤーノシュ・フェレンチクが率いていた当時は中欧の代表的なオーケストラの誉れ高かった国立フィルも、その頃には少々影の薄い存在になっていた。「子供の頃に輝いていたオーケストラのそんな姿は見るにしのびなかった」とコチシュ氏は話していたが、それこそが彼にチャレンジ精神に火をつけたのではないだろうか。
かつてインタビューした際に、「私はいつも、”足りていないものを求める”傾向があると思う」と言っていたコチシュ。それは彼の音楽家としてのさまざまな顔に繋がっていくキーワードだと思うが、国立フィルで断行した改革も、”足りていないもの”を埋める作業の一つだったのだろう。
2000年にウィーン・フィル、ロンドン・フィル、ロンドン響関係者を審査員に招いて当時の正団員に対して公開の覆面オーディションを行い、彼らに意識改革を迫ったことは一般紙にも大きく採り上げられるほど話題になったが、これを境に国立フィルは確かに大きく変貌を遂げた。
徹底的にこだわり抜くコチシュの要求に瞬時にして敏感に反応し、立ち上る音の息遣いの一つひとつを聴き手にも共有してもらおうという雰囲気が、国立フィルの演奏会には常に存在するようになった。こうして、かつての祝祭管弦楽団同様、国立フィルはもっともチケットの入手困難なオーケストラとなった。
実は今年の3月10日にブダペストで1年ぶりに国立フィルを聴こうと思ったのだが、定期会員だけでチケットは完売。やむなくつてを頼ってプレス席を用意してもらい、聴いたのはハイドンの交響曲第82番《熊》と、モーツァルトのピアノ協奏曲第17番、フルート協奏曲第2番、それに交響曲第31番《パリ》。ピアノ協奏曲はもちろんコチシュの弾き振りで、これを楽しみに来た聴衆も少なくなかっただろうが、”オードブル”のつもりのハイドンから彼はいきなりホールに集った人びとの心をぐいっと掴んだ。
そこでは指揮者の綿密な楽譜の読み込みが完璧にオーケストラに浸透し、その上で《熊》の愛称どおりの野趣あふれる響きがいとも自在に展開された。その愉快な気分を指揮者と演奏者と聴衆がまさに一体となって楽しむという、なんとも贅沢で稀有な一夜となったのだった。
一方、ピアニストとしてのコチシュを思い返してみると、シフ、ラーンキと並んで”ハンガリーの三羽鳥”と形容された20代の頃の彼は、早くから作曲にも取り組んで実験的な音楽を作っていたこともあって、ピアノに専念していた他の二人と常に違ったニュアンスで語られてきた。そんな彼が強烈に存在感をアピールしたのは、バルトークのピアノ作品全集の録音だった。10年を要したというこのプロジェクトは音楽学者のショムファイが監修にあたったが、コチシュ自身も楽譜以外にもあらゆるドキュメントに目を通すなど、徹底してこだわって作ったものである。
「このシリーズのどのひとつの音をとっても後悔する点などない」と言い切る自信作となったこの全集では、バルトークの意図が最大限に反映されながら、コチシュ自身の自然な語り口とあいまって、時に饒舌に、時に穏やかに、そして時に特有の冷徹な雰囲気に満ちて、バルトークの世界がこれ以上期待できない充実ぶりで展開される。バルトーク自身から秘密を聞きだすことができない今、あらゆる手だてを駆使して必死にさぐり、たどりついたその表現。バルトークが彼の演奏を聴いたらどんな反応を示すだろう、と思わず無いものねだりをしたくなるような、コチシュの本領が発揮された録音だったのである。
”足りないものを求める”コチシュは、近年、編曲にも積極的に取り組み、ドビュッシーとラベルのピアノ曲、あるいはピアノ伴奏つきの歌曲を管弦楽化したものの一部はCDにも収められている。これらの作品はいずれもコチシュが演奏したことのあるものばかりで、そうする中でピアノでは表現しきれない演奏効果があることを確信したのだという。
バルトークやリストにもそのような作品があり、彼によれば「中にはオーケストレーションを手掛ける時間がなかったと思われるものもある」のだそうだ。この一連の話を聞いて実感したのは、ピアノ演奏、指揮、編曲という別々とみなされる活動が彼の中では有機的につながっていて、別個のパーツではないということだ。このようなコチシュのユニークな発想のベースは間違いなくピアノだ。そのピアノ演奏を、協奏曲の引き振りだけでなく、リサイタルという形で久々に日本で聴けるのが何よりもうれしい。なにしろ、過去の大作曲家達がおそらく時間がなくてできなかったオーケストレーションなども手掛けるようになって、自分も「ピアノ・リサイタルに振り向ける時間が少なくなってしまった」とやや自嘲気味に語っていたコチシュなのだから。
(文:横井雅子)
共演のバイオリニスト、木嶋真優さんに聞く
今回、東京、大阪、福岡、水戸の公演でソリストを勤め、また、5月に小林研一郎/日本フィルのヨーロッパ・ツアーのソリストににも抜擢された木嶋真優さんにお話を聞いた。
13歳にしてヴィエニャフスキ国際コンクール・ジュニア部門で最高位を受賞しているが、そこに至るまではどうだったのだろう。
木嶋:「最初はお稽古ごとの一つとしてヴァイオリンを始めたのですが、小学校2年生の時に、以前からあこがれていた五嶋みどりのレクチャー・コンサートの受講生に応募したら、何千人の中から選ばれたのです。それから本格的にやろうと思いました。」 その後ロストロポーヴィチから絶賛の評価をされるのだが、その経緯は、彼女の先生であり名伯楽として有名なザハール・ブロン先生が彼女を巨匠に紹介したことによるという。
ウィーンで巨匠の前で弾いたのは3曲の協奏曲と2曲の小品。しかし、その後が凄い!
先ず2005年2月のサンタ・チェチリア管の定期とマドリッド公演に招かれた。
その後ツアーが巨匠によって組まれたのだが、5月にワシントン・ナショナル響、6月にロンドン響、7月にはバイエルン放送響にまで及ぶ。曲もパガニーニ、チャイコフスキー、ショスターコヴィチ、ブラームスという多彩さである。この中のどれかに招かれるだけでも抜擢と言えるが、いくら高い評価をされてもここまでのツアーが組まれたというのは並大抵のことではない。それに、これだけ弾くのは大変であるが、彼女は簡単に言ってのける。
「とにかく、あっという間の1年でしたが、とても勉強になりました。」
また、16歳の時にプラハでアシュケナージに聞いてもらったことがあり、その時は彼が自らピアノを弾いてくれてツィガーヌを弾いた。それがアシュケナージ/N響の初レコーディングでの参加に結びついているという。
好きなヴァイオリニスト、音楽家について尋ねてみた。
「ハイフェッツは私にとって神様のような存在ですね。それから若くして交通事故で亡くなってしまったOssyという人です。CDも出ています。若い頃のギトリスのシベリウスやグリュミオーのモーツァルトもいいですね。ヴァイオリン以外ではムラヴィンスキーのとトスカーニ、ジョルジュ・シフラ、マリア・カラスも好きです。」
今度ハンガリー・フィルと初共演するシベリウスは、
「本格的にシベリウスを弾くのは初めてです。信頼する小林マエストロの指揮と素晴らしいオーケストラなので、とても楽しみです。」 |
JAPAN ARTS 主催公演 |
7月5日(水) 午後7時
サントリーホール
指揮:小林研一郎
ベートーヴェン:「エグモント」序曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
(ヴァイオリン:木嶋真優)
ベルリオーズ:幻想交響国
チケット
S:12,000 A10,000 B8,000
C:6,000 D4,000 学生席3,000
夢倶楽部会員
S:11,000 A9,000 B7,200
C:5,400 D3,600
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7月11日(火) 午後7時
サントリーホール
指揮;小林研一郎
コダーイ:ガランタ舞曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番
チャイコフスキー:交響曲第4番
チケット
S:13,000 A11,000 B9,000
C7,000 D5,000 学生席3,000
夢倶楽部会員
S:12,000 A11,000 B8,100
C6,300 D4,500 |
その他公演スケジュール |
| 7月1日(土)午後2時 |
横浜みなとみらいホール
指揮・ピアノ:ゾルタン・コチシュ
チケット
S:12,000 A1,0000 B8,000 C5,400 D4,000
夢倶楽部会員
S:11,000 A9,000 B7,200 C5,400 D3,600
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ゾルタン・コチシュ ピアノ・リサイタル |
| 6月28日(水)午後7時 |
東京オペラシティ コンサートホール
チケット
S:6,500 A5,500 B4,500 C3,500 学生席:2,500
夢倶楽部会員
S:5,900 A4,500 B4,100 C3,200
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| 6月30日(金)午後7時 |
フィリアホール
S:6,000 A5,000
問:045-(982)-9999
http://www.philiahall.com |
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